ビッグモーター事件で再び露呈した「団塊ジュニア企業」に不正が絶えない理由

 

ビッグモーターのみならず。不正が相次ぐ「団塊ジュニア企業」

一方、窪田順生氏は、近年、「団塊ジュニア企業」の不正が相次いでいると指摘、ビッグモーターもこのパターンであったと述べた(*7)。

窪田氏によると、団塊ジュニア企業とは第二次ベビーブームによる需要増が大きな要因で急成長して、全国展開を達成した大企業を指す。

具体例としては、1973年に創業したセブン-イレブン・ジャパン、同年創業のレオパレス21、1974年創業の大東建託などが該当。

1976年創業のビッグモーターは、団塊ジュニア世代(1971年~1974年)ではないが、団塊ジュニアを授かったファミリーが国内で爆発的に増えて、その恩恵を得た会社という意味では「団塊ジュニア企業」と同等だ(*8)。

これらの企業は総じて、人口急増の波にのって全国展開を達成し、巨大企業に成長するものの、しかし、人口減少時代に転じても、なかなか過去のビジネスモデルから脱却できず、「拡大路線」に固執してしまう。

そのため、現場が帳尻合わせ的に不正に手を染めてしまったり、過重労働が強いられてしまったりという問題が発生するというのだ(*9)。

セブン-イレブンの場合、同一地域内に店舗を集中出店させる「ドミナント戦略」に固執してしまった結果、競合だけではなくセブン同士のカニバリズムを招き、バイト不足や現場の過重労働を引き起こし、時短営業をのぞむオーナーがFC相手に訴訟を起こす。

レオパレスの場合、人口減少で空き家問題も深刻な中で、新築アパートを大量に建て続けて売り上げをつくる、という人口増時代の戦略を継続してしまう。結果として、サブリース(家賃保証)というシステムが破たん。

一方的に家賃を減額したレオパレスに対して、オーナーが集団訴訟を起こすなど対立が激化しているほか、コスト削減のための違法建築問題も。

大東建託も厳しいノルマがあると指摘され、たびたび不正疑惑が報じられている。

駆逐されない日本のブラック企業

ビッグモーターの事件は、令和の時代になってもいまだにはびこる「ブラック企業」が、この日本社会から“駆逐”されていない状況を指し示している。

ブラック企業がなくならない理由として、まず前提条件として、世界と比べても特殊な日本の雇用システムを認識する必要がある。

日本では、入社前には職務の内容や勤務地などが本人には知らされなかったり、入社後もいつ別の職務を命じられるか分からないということが少なくない。

また、法定勤務時間内、いわゆる「9時~5時」で必ず帰れるなどということはあり得ない。要は、すべて、労働者は会社の命令に従うことが「常識」だ。

しかしならが、欧米の一般的な雇用契約は、そうではない。「保険商品の販売業務」「繊維加工機械の操作」といった具体的な職務(ジョブ)が先に存在し、求められるスキルや、職責が特定されている。

基本的に、自分の仕事の範囲を越えて他人の仕事を行うことは、職域を侵すことになるので、できない(*10)。

また、日本の労働基準監督署の人員が極端に少ないことも問題がある。国際労働機関(ILO)は、先進国における労働基準監督官の合理的な基準として、監督官1人当たりの労働者数を最大で1万人としている(*11)。

2017年の資料によると、日本の労働基準監督官の定員は2016年度は3,241人であり、雇用者1万人あたりの監督官数は0.62(*12)。

諸外国の数値は、ドイツが1.89、イギリスが0.93、フランスが0.74、アメリカが0.28となっており、日本の数値はアメリカに次いで低い。

しかし実際にはもっと少なく、全国で1,500人くらいではないか(*13)、とも言われている。

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