輸出企業だけが“焼け太り”。円安ならぬ「円弱」に導いた二人の大罪

shima20160920
 

30数年ぶりという円安によって、物価高に襲われる庶民の生活。輸出企業のほか、安い日本に押し寄せる外国人で潤う企業もあるものの、恩恵を受けているのはほんの一部に過ぎません。今回のメルマガ『佐高信の筆刀両断』で評論家の佐高さんは、インフレは金持ちに富を集める「逆再分配」と語った福田赳夫元首相の言葉を紹介。大企業と金持ちが「焼け太り」、貧乏人がますます痩せ細ってもなんの手も打てない、円安ならぬ「円弱」を招いた安倍政権と黒田東彦前日銀総裁の方針を批判しています。

円安ならぬ円弱の日本

安倍晋三が首相になる前は1ドルが100円以下だった。それが日本銀行総裁を黒田東彦にして異次元緩和などというデタラメをやらせてから150円にもなってしまった。いわゆる円安、私に言わせれば円弱である。

私は円高を円強と言っている。その方がわかりやすいと思うからである。円安つまりは円弱となって、日本にはいま外国人があふれている。

観光的にはいいかもしれないが、物価高で暮らしは大変である。「物価の番人」であるべき日本銀行が「株価の番人」となって、トヨタだけがラクになり、内部留保は555兆円というバカなことになっている。消費税を上げて法人税を下げた結果でもある。

田中角栄の政敵だった福田赳夫は安倍晋三の父親の晋太郎が属した派閥の親分だったが、旧大蔵官僚で経済政策はかなりまともだった。自分の系統の晋三が異次元緩和などをやらせたと知ったら、驚いて腰をぬかすだろう。

田中角栄の放漫な経済政策を批判して大蔵大臣をやめた福田は1974年9月号の『文芸春秋』で、こう語っている。

「実はインフレというものは単に物価の上昇というだけの問題ではないんだね。インフレというのは価格上昇の問題というよりはむしろ分配の不公正の問題なんです。 インフレになるとそれに強い者と弱い者が必ず出てくる。一般的に言ってフロー、つまり所得は弱くてストック、つまり資産は強い。・・・・家計は弱者で企業が強者、貧しい者は弱者で金持は強者であるという図式がインフレによってくっきりと描き出されてしまうんですな。 この観点からいえばインフレとは弱者から強者への、貧乏人から金持への、スケールの大きな富の移転であり、逆再配分だということになります」

私は昭和恐慌の際に取付け騒ぎで最初に倒産した東京渡辺銀行のことを『失言恐慌』(角川文庫)と題して書いた。

その時、一番驚いたのは、すべての銀行が大変だったわけではないということである。当時の銀行はサラ金の大型のようなものも少なくなかったが、預金者はそこから引き出して、そのまま持ってはいない。より安心なところとして、いわゆるビッグ5に預け替えたのである。それで、三井、三菱、住友、安田、第一といった銀行が一挙に大きくなった。

俗に焼け太りと言うが、災難のような取付け騒ぎで、大銀行はさらに大きくなったということを知ったのはショックだった。角川文庫へのあとがきに私はこう書いている。

「たとえば“ノーパンしゃぶしゃぶ”などという面妖なものが話題になったスキャンダルで大蔵官僚は責任を取っただろうか。たしかに、いわゆるキャリア官僚の1人が逮捕されたが、民間の銀行等の責任の追及のされ方に比して、あまりにそれはゆるかった。いつの世も官僚とは責任を民間に転嫁して自らはそれを免れるものなのか」

黒田と安倍の責任は限りなく大きい。

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