損保側にも問題が 寡占による”もたれ合い”
ビッグモーターをめぐる一連の騒動では、損保ジャパンの不可解な動きも伝えられている。そもそもの騒動の発端は、顧客の車にわざと傷をつけるなどし、損害保険会社に不適切な保険金請求を行っていたことだった。
しかしながら、「保険金の不正請求」の問題についていえば、ビッグモーターが単独で実行したとは考えにくいとも(2)。要は、単独ではなく他社の協力、もしくは共謀がなければ成立しえない事例だったという。
ビッグモーターは、損害保険ジャパン(損保ジャパン)、東京海上日動火災保険、三井住友海上火災保険の大手3社に修理費を水増しする不適切な請求を行っていた。
その中でも、損保ジャパンは、かつて前社長の兼重宏行氏に次ぐ第二株主であったし、2011年以降も37人もの社員を出向させていた。
また、
「損保からビッグモーターの板金工場に入庫誘導した件数に応じて自賠責保険を使ってもらえる密約がありました。入庫1件につき自賠責5件です。損保によっては7件の場合もありました」(3)
というように、修理の斡旋1件につく5台分の自賠責保険契約を回すという、ビッグモーターと損害保険会社との密約関係があったことも分かっている。
このような密約のために損保ジャパンは、顧客を積極的にビッグモーターへと斡旋し、不適切な請求をスルーしていた疑いも否定できない。
ただ、問題は損保ジャパンだけにあるのか。損保業界では、寡占が進み、事前調整が疑われる取引が相次いでいる(4)。ビッグモーターの保険金不正請求問題でも、”もたれ合い”が指摘される。
遅れた国の対応
国の対応に遅れはなかったか。ビッグモーターをめぐっては、数年前から問題行為が行われていたといい、報道もされてきた。しかし国の対応は、ここ1カ月前からようやく始まる。
早期改善を図る法制度に問題はなかったか。
ビッグモーターをめぐる騒動は、ここ1カ月ほどで大きく動く。同社が7月5日、損保側の求めに応じて設けた調査報告書を受け取ったと明かし、18日に報告書を公表。
その中で、靴下に入れたゴルフボールで車をたたくなどして修理範囲を広げ、保険金を水増し請求する手口が明らかとなる。
しかしながら、報告書では、2018年ごろには保険金は不正請求されていたと指摘し、複数のメディアが昨年来、不正請求疑惑を報道。
また全国の消費生活センターにもビッグモーターに関する相談が急増しており、ここ数年で1000件を超えている。
金融庁の担当者は、東京新聞の取材に対し、
「昨年の報道を踏まえ、損保側から情報収集したが、十分な回答が寄せられず、(不正の)端緒をつかめなかった」(5)
と説明。7月に報告書で不正が改めて浮き彫りとなり、本格調査にいたったという。また国交省の担当者は、
「不正請求は金融庁の所管。それだけではなかった。同社の報告書で(国交省所管の)板金部門が絡んでいたために動けた」(6)
とする。
自動車評論家の国沢光宏氏は、
「水増し請求はよくある上、車の所有者が被害に気付きにくく、多くが保険会社との閉じた関係の中で処理される。当初は行政も大ごとではないと関心を抱かなかったのでは」(7)
とみる。一方、経済ジャーナリストの荻原博子氏は、
「不正があるほど、回り回って私たちの保険料が上がる恐れがある。監督庁はもっと迅速に動いてしかるべきだった」(8)
と指摘し、被害の拡大を防ぐ手立てが不可欠であったとした。
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