老いることは「悲しいこと」なのか?認知症新薬レカネマブ承認を考える

 

数年前に「寝たきり老人がいるのは日本だけ」という言説が、話題になったのを覚えているでしょうか。欧米では「老いる」ことや「寿命」に対する考え方が日本とは違うため、延命治療のあり方にちがいがあるのだ、と。

私も10年前までは、「そうはいっても家族としては、1日でも長く生きてほしいって思うにきまってる」と考えていました。

しかし、父に大きな変化が起き、次々と予期できない変化が起こることを学び、母にも大きな変化が起き、奇跡的な回復をみせながらも、老いは前にしか進まないことを学び、長さではなく笑顔でいる瞬間が、一回でも多くなることを望むようになった。子にできることといったら、老いる親が1日でも多く笑ってくれる日をつくることくらいしかできないと痛感したのです。

ボケるのは当たり前だと思うようになったし、年取っておかしなこと言ったり、とんちんかんなことをやったりするのも、笑いに変えることのほうがいいのではないか?と思うようになりました。

年をとることで手に入れる「時空を越える跳躍力」と「創造性あふれる作話」も、楽しんだほうがいい――。そう考えたら、老いることが悲しいことではなくなりました。

とはいえ、人間の心は複雑なので、今日は「ま、いっか」と笑えても、明日は「薬でなんとか」と医学技術に頼りたくなる。延命治療はしないと決めていても「1日でも長く生きていてほしい」と医療機器に頼りたくなることだってある。

正解はないのです。だからこそ、治療薬開発だけではなく、「老いる」という誰もが直面するライフステージを、どう捉えるのか?という問いを持ち続けることを忘れてはいけないように思えてなりません。

自然な形で死にたい――という願いは万人がもっているのではないでしょうか。では、その自然な形とは何か?医学の進歩が逆に人生の最後のステージを苦痛に変えてしまうのではないか?

死生観には、文化的なものが大きいので答えはでないかもしれません。それでもやはり、治療薬の負の部分の議論も、もっと深化させてほしいと思います。

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