Google日本元社長が問う。なぜ日本政府は「汚染水の海洋放出」に拘るのか?

 

ロンドン条約でも禁止されている放射性廃棄物の海洋投棄

3.他のオプションを排除して処理水の海洋放出にこだわるのは、青森県六ケ所村に建設中の使用済み核燃料の再処理工場の稼働を見越していて、トリチウム水を海洋放出する計画があるからだ、という話もありますが、本当でしょうか?

4.岸田首相は「処理水の海洋放出が福島を始めとした被災地復興の新たな一歩です」と発言していますが、本当でしょうか?これも先程の廃炉の議論と同じで、海洋放出と被災地復興が直結するわけではありません。実際、今までは海洋放出せずに復興作業を進めてきたわけで、処理水を海洋放出することによって被災地復興が進むわけではありません。復興の妨げになっている一番の問題は、廃炉の作業が進まないことにあります。現地の漁業関係者が心配しているように、海洋放出することが却って「風評被害」を呼び込んで、逆に復興の妨げになるのではないでしょうか。

5.汚染水にしろ、汚染土壌にしろ、政府は何故核汚染物質を拡散するのでしょうか?常識的には、核汚染物質は特定の地域の外に出ないように、封じ込めるのが常識なのではないでしょうか?そもそも放射性廃棄物の海洋投棄はロンドン条約でも禁止されています。国際条約を破って処理水を海洋放出することで、これまで国内問題だったことを一気に国際問題化してしまいました。汚染土壌も全国に運ばれているようですが、汚染物質を封じ込めずに拡散するのは根本的に間違った対処法なのではないでしょうか?

6.福島の原発事故は、原発の安全性に関して、長く東電、政府、マスメディアのプロパガンダやディスインフォメーションに国民が騙されてきたことを明らかにしました。また、事故発生後も、情報の隠蔽を含めたディスインフォメーションが続きました。にも拘らず、処理水放出を容認する理由として、東電や政府発表の説明やデータを「科学的根拠」と信じて掲げ、正当化しようとする人がたくさんいるのは何故なのでしょうか?

7.中国が日本の水産品を全面禁輸したことに対して、農水大臣を始め、政府関係者は「想定外」と言いましたが、5.で書いたように、汚染水問題を敢えて国際問題化したのは日本政府であり、自らの選択で、中国をはじめとした諸外国に外交上の言質を与えてしまったわけです。そのような決断について、外務省を始め、深刻な外交問題化することを予見して対策を打ってこなかったのは何故なのでしょうか?中国からは事前に警告だけでなく代替案の提案もなされていたと聞きます。経済安保担当の高市大臣などが「対抗措置を検討する段階」などと物騒な発言をしているのも、本末転倒ではないでしょうか。自分たちがやったことが中国に言質を与えてしまったことの自覚がないのでしょうか。

8.ALPS処理水はトリチウム水とも呼ばれ、飲んでも問題ない、などと政治パフォーマンスでもさかんに使われていますが、実際にはヨウ素129、ルテニウム106、ストロンチウム90、セシウム137など、他の多くの核種が残留しているとされています。これは東電もデータとして公表していました。また、トリチウムは世界中の原発が排出しているので問題ない、との楽観論も根強いです。しかしながら、正常運転されている原発の二次冷却水として排出される水にトリチウムが含まれている、という話と、メルトダウンした核燃料デブリに直接触れた水をALPSで処理した水にトリチウムが含まれている、という話は、そもそもトリチウム混入の機序が全く違うものです。また、今すぐ飲んで安全というよりも、今後の食物連鎖による生物濃縮の問題が不安です。

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