「世界にたばこを売りまくれ!」JTが狙い定めたたばこ規制の“緩い”市場
今回の問題の背景には、世界的な健康意識の高まりで喫煙率が減少するなか、しかし、とくに発展途上国でJTがたばこを“売りまくり”、さらにロシアのような海外事業にも力を入れているという事実が隠されている。
JTグループは、世界120カ国以上でたばこ事業を展開し、2013年の時点では、海外のたばこ収益が47.7%と、国内の収益32.4%を上回っている。
JTインターナショナルは、世界70カ国に事業所を抱え、28カ所の生産・加工場を持ち、全世界で2万4000人の従業員を抱え、100カ国以上の国籍の労働者が働いている、超巨大グローバル企業だ。
他方、近年は世界的な海外M&A展開を行い、積極的な海外事業を進めていった。まだ日本で「M&A」という用語が身近でなかった時代、JTは1992年にイギリスのマンチェスターたばこを買収、1999年にはアメリカのRJRナビスコを9400億円で買収。
この時点で、JTは世界第3位のたばこ事業者という地位を手に入れた。
その後も、2007年にはイギリスのギャラハー社を買収。その規模は、2兆2000億円に上り、同時期にソフトバンクがボーダフォン(イギリス)を買収したときの買収額1兆9000億円を上回る。
同時にJTは、ロシアやトルコなどの新興国のたばこ企業を買収。新興国だけでなく、2011年にはスーダンの大手たばこ企業を、2012年にはエジプトの企業を買収しており、アフリカへの進出も果たした。
現在のたばこの消費量は、先進国市場における減少を、発展途上国や新興国での増加で補っている状態だ。とくに、アジアや中東、アフリカや中国、ロシア、インド市場におけるたばこ消費量は著しいものがある。
このような市場は、他の市場と比べてもたばこ規制の“緩い”市場であることは言うまでもない。要は、たばこメジャー企業は、規制の厳しい先進国をすり抜け、規制の緩い市場へとシフトしている。
もちろん、WHO(世界保健機関)もこの動きを察知し、発展途上国におけるたばこ規制の重要性を強調する。
背後に「たばこ利権」。日本のたばこ規制が緩すぎる訳
JTがここまで巨大化した背景には、日本における緩すぎるたばこ規制がある。事実、日本のたばこ規制は、たばこ規制枠組条約が求める規制から大きく遅れを取っている(*4)。
その背景には、「たばこ利権」という存在がある。「たばこ事業法」の下、日本は財務省とJTを中心に、葉タバコ農家、たばこ小売店、たばこ族議員が結束し、たばこの生産と製造、流通の既得権を守り続けてきた。
そのことにより、日本は長らく、罰則付きの受動喫煙防止法またはたばこ規制法を制定してこなかった。そのような国は、たばこ規制枠組条約180か国のうち、アフリカや日本と北朝鮮だけだった。
たばこは、脳血管疾患、心臓疾患、肺疾患そして癌を誘発する大きな原因の一つであり、さらに喫煙者のみならず、非喫煙者も受動喫煙により健康被害を受ける可能性がある。
WHOたばこ規制枠組条約は、2003年にWHOで採択され、それには、
「たばこの消費及びたばこの煙にさらされること」
が、死亡や疾病、障害を引き起こすと科学的証拠におる明白に証明されているとし、さらにたばこの需要を減らし、たばこの煙にさらされることを防ぐための措置を講じるよう、求めている(*5)。
2007年からは、締約国は、たばこの煙にさらされる受動喫煙の防止については、2007年に条約締約国による全会一致で採択された、「たばこの煙にさらされることからの保護に関するガイドライン」を遵守しなければならない。
そのガイドラインでは、
「100%禁煙以外のアプローチが不完全である」
と分煙は不完全であるとし、
「すべての屋内の職場、および屋内の公共の場は禁煙とすべきである」
「たばこの煙にさらされることから保護するための立法措置は強制力を持つべきである」(*6)
とし、その期限として2010年2月までに屋内の公共の場における完全禁煙を実現させるための法的措置を求めた。しかしながら日本は、それを長らく実現できずにいた。
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