中国「一帯一路」10周年で“つまみ食い報道”しかできない日本メディアの限界

 

確かにスリランカが2017年、ハンバントタ港の建設費の返済の目処が立たなくなり港の運営権を99年間リースせざるを得なくなった。ただし、これは多くの日本人が記事を読んでイメージするように中国政府が手に入れたのとは違う。リースの対象は中国とスリランカの合弁企業(中国側は招商局グループ)だからだ。

「罠」には最初から取り上げる目的で無謀な融資をしたという解釈も含まれるが、現状ではむしろ純粋に商業的価値が高まってきているという。東京で行われた「『一帯一路』イニシアティブ十周年国際シンポジウム」で講演した呉江浩大使は、ハンバントタ港について、「(港の)運営は良好で、バラ積み貨物の取扱量が120万5000トンに増え、今年1月から8月までの船舶給油量は52万8000トンに達し、昨年に比べて600%も増えました」とその成果を誇っている。

もちろん、スリランカはアジアとアフリカ・欧州を結ぶシーレーン(海上交通路)の要衝である。安全保障上も重要でアメリカやインドが中国のプレゼンスの拡大に神経を尖らせてきた。対する中国も自国に安心してエネルギーを輸送するルートとして、シーレーンの防衛を重視してきた。その意味では筆者も、単純に「商業的」な意味しかないなどとは考えていない。

ただ、かつて中国が潜水艦をスリランカに寄港させたケースでは、「中国側が手に入れた」ハンバントタ港ではなく、コロンボ港であった点はなぜか見落されている。つまり99年間のリースといっても、即座に軍事利用ができるという話でもなければ、逆に軍艦の寄港が必要ならばリースなど関係なく、重要なのはむしろスリランカ政府が「許可するか、しないか」なのである。

同じようにスリランカが「債務の罠」に陥ったのか否かを判断するのも当事者である。日本やアメリカがする話ではない。メディアは繰り返し「債務の罠」を強調するが、肝心なスリランカはハンバントタを引き合いに中国を批判したことはない。

かつてスリランカでマイトリーパーラ・シリセーナ大統領が誕生した2015年には、マヒンダ・ラージャパクサ前大統領と中国の癒着を俎上にのせ、中国が主導するインフラプロジェクトの再検証を命じ、中国側にも警戒感が広がったことはあつた。同じように2018年のマレーシアでも、マハティール・モハマド首相が「中国からの多額の投資で財政悪化を招いた」と現役のナジブ・ラザク首相を批判して選挙に勝利し、首相に返り咲いた。

当然、中国との離反が注目された。だが、スリランカもマレーシアも結果として中国との関係を大きく見直すことはなかった。それは、両国とも「一帯一路」のプロジェクトを継続する合理性を認めたからだと考えられている──(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年10月15日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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