法務省にとって今のところ大切に扱っておかねばならない柿沢
そんないきさつが尾を引くなか、江東前区長の急逝を受けて行われたのが今年4月23日の区長選だった。萩生田氏は、党が擁立した山崎氏を応援するよう要請したが、柿沢氏はこれを聞き入れず、木村氏の側についた。柿沢氏は、山崎氏やその父親の元区長とは以前から仲が悪い。つまり、自分の都合を優先したわけだ。萩生田氏がますます憎悪をつのらせたのは想像に難くない。
区長選が終わって、木村区長に今年7月、区民の男性ら2人から告発状が出され、受理された。選挙期間中、本人の写真に「木村やよいに投票してください」とのテロップを付けた有料広告をユーチューブに出したのは、有料インターネット広告を禁じる公選法に違反している疑いがあるというものだ。
木村区長によるそれだけの容疑なら特捜が乗り出すほどの事件ではない。だが法務副大臣である柿沢氏が、ネット広告を出すようアドバイスしたことにくわえ、区長選の前に、区議らにカネを配っていたことがわかっている。柿沢氏は「同時期に行われた区議選の陣中見舞いだ」と主張しているが、検察は「買収」も視野に入れて捜査を進めている可能性が高い。
検察は、建前上、政治からの独立性が求められる。だが、近年、法務省幹部を通じて政権を忖度する傾向が強まっている。安倍政権が検察庁法を無視してまで定年延長で検事総長に就けようとした黒川弘務氏(元東京高検検事長)がその象徴的な存在だった。後援会観劇ツアーで有権者を買収した小渕優子氏、URへの口利きで現金を受け取った甘利明氏。明白な証拠がそろっているこの二人の事件を潰したのは、安倍官邸を忖度した法務省官房長時代の黒川氏だったといわれる。
東京地検特捜部は政界の捜査に入ろうとするさい、法務省に、なぜかお伺いを立てることになっている。表向きは特捜が暴走することがないよう、ということだが、実際には政権の怒りを買うような捜査を避けたがる法務省幹部の保身に起因している。
今回の柿沢氏の場合は、法務・検察の忖度官僚たちも安心して捜査を進められるということだろう。なぜなら、岸田政権の政策決定に強い影響力のある萩生田政調会長の、柿沢氏に対する厳しい姿勢がメディアの報道などで明らかであるからだ。
そういう意味で、法務省にとって柿沢氏は、今のところ大切に扱っておかねばならない“重要人物”なのだ。野党の厳しい質問にさらされ、余計なことをしゃべられては困るという検察サイドの考えが、今回の法務省の対応に反映されたとみていいのではないか。
そして、岸田首相や小泉法相も官僚たちの振り付け通りに発言し、法務省事務方という漠然とした存在に責任を押しつけた。本当に、首相や法相の意に反して法務省が独断でやったのなら、その官僚を特定し、処分するはずであろう。
あいかわらず、政官合作によるタチの悪い茶番劇を見せられ続けているように思えてならない。
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