日中首脳会談で少し緩んだ習近平の口元。そこから日本が読み取るべき“サイン”は

President Xi Jinping of China during a state visit on August 22, 2023 in Pretoria, South Africa.
 

習近平国家主席が「(核汚染水問題は)すべての人々の健康と地球規模の海の環境に影響する問題。日本は責任をもってこの問題を扱うべき」と指摘したのに対し岸田文雄首相が「アルプス処理水の海洋放出については、私から科学的な根拠に基づく冷静な対応と中国による日本産食品輸入停止措置の即時撤廃を強く求めた」と記者会見で述べたやり取りだ。

処理水の問題を含めて、尖閣諸島など東シナ海問題やスパイ容疑をかけられ中国で拘束されている邦人の解放問題。また南シナ海や台湾をめぐる問題も平行線を前提にお互いがアリバイ的に主張し合う「いつかどこかで見た」場面もあった。それでもこの会談は、全体として日中関係が底を打ったという印象を世界に与えることには成功したようである。

シンガポールのテレビ『CNA』のニュース番組「アジア・トゥナイト」は、「政治問題での具体的な進展はありませんでしたが、日中間で徐々に雪解けが進んでいる気配はうかがえました」と印象を伝えている。日本の報道では「笑顔なき会談」という表現も目についたが、岸田首相を迎えた習近平の表情は、笑顔とまではいかないまでも明らかに緩んでいた。

考えてみれば日本はここ数年、アメリカが中国包囲網を築くためのサポートとして、世界各地で中国の問題を積極的に取り上げてきた。今年の例を挙げれば、5月には主要先進国7カ国(G7)広島サミットで、「東シナ海や南シナ海の状況に深刻な懸念を表明」という文言を日本が主導して首脳宣言に入れた。中国はこれに反発し、「中国を中傷し攻撃するもので、強烈な不満を表明するとともに断固反対する」と外交部報道官がかみついた。

また9月にはワシントン郊外のキャンプ・デービッド山荘での日米韓首脳会談を受け、新華社が「故意に『中国脅威論』というデマを拡散させた」と激しく紙面で反論した。同9月には中国中央テレビ(CCTV)の報道番組で「日本の軍拡」と題した30分番組も流された。

本来なら日本のトップと握手などしたくはないだろう。そんななかで行われた会談で、習近平の口元が少しでも緩んでいれば、まずは上出来と言わざるを得ない。そして、この対応は中国側が歩み寄っているとも受け取れるサインなのだ。

これは過去にこのメルマガで何度も書いてきたように日本が米中対立の中で未曽有の「モテ期」にあることを証明している──(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年11月19日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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