突如「選挙制度改革」にすり替えられた「政治腐敗の防止」
「政治腐敗の防止」を掲げていたはずの政治改革論議に、突然「選挙制度改革」が躍り出た。そして、選挙制度改革の方向性はいくらでもあるはずなのに、気がつけばその方向性は「小選挙区制の導入」一本に絞られていた。「政治にカネがかかるのは、選挙区で自民党の同士討ちが起きるからだ。この弊害をなくすため、選挙区で1人しか当選しない小選挙区制を導入すべきだ」という声で、政界が埋め尽くされたのだ。
「与野党が1対1で政策論争を交わし、政権をかけて争う政治を実現する」とのかけ声に、当時は自民党に批判的な勢力も好意的に受け止める向きが多かったと思う。
しかし、選挙区で1位の候補しか当選しない小選挙区制は、もともと「巨大与党をつくりやすい」制度である。選挙区で1位の候補しか当選しないため、時の第1党すなわち政権与党の自民党に有利になりがちだ。現在の衆院の選挙制度は小選挙区と比例代表の並立制となっているが、自民党は当初、比例代表のない「単純小選挙区制」を志向した。現行制度よりもさらに政権与党有利になりがちな制度である。
つまり自民党は、自らの政治腐敗にメスを入れるさまを演出しつつ、実は自らにとって都合の良い改革を進めようとした、と考えることもできるのだ。
そしてこの「政治改革」の結果、自民党以上に苦しんだのは、むしろ野党の方だった。前述したような「政権与党の1人勝ち」状況を避けるためには、野党はすべての選挙区で候補者を一本化して、できるなら一つの政党という「大きな塊」になって、自民党と「1対1」で戦うことを求められるからだ。野党はその後30年にわたり、延々と離合集散の再編劇を繰り返すはめになり、今日に至っている。
もちろん、小選挙区制が自民党にも変化を与えたことは、これまでにも多くの指摘がある。しかし、どう考えてもこの選挙制度の変更が、自民党以上に野党に多くの負担と痛みを強いたのは間違いない。
筆者は選挙制度改革そのものを全否定する立場には立っていない。野党は確かに多くの痛みを強いられることになったが、結果として「政権を目指す野党第1党」という存在が明確に意識され、実際に政権交代が実現したからだ。政権交代の可能性が皆無に近かった中選挙区制に比べれば、この1点をもって小選挙区中心の制度の方がまだましだと、今も考えている。
しかし、少なくとも「自民党の政治腐敗をただし、同党を改革する」という当初の政治改革の目的に照らして考えれば、一体この改革が自民党の何を変えたのか、と首をかしげざるを得ない。実際のところ自民党は、いまだに選挙に多額のカネを使い続けている。2019年参院選広島選挙区における大規模買収事件や、昨年12月の柿沢未途前副法相が公職選挙法違反(買収)容疑で逮捕された件が、その良い例だ。
今回の裏金問題への自民党の対応が、30年前の政治改革の「失敗」を繰り返すことになってはならない。これから大々的に打ち出されるだろう「改革」なるものについて、内容の実効性を問うことはもちろん、気がついたら自民党の「焼け太り」になるような「改革」がどさくさに紛れてそっと差し込まれていないかどうか、そういうことにも監視の目を光らせる必要があると思う。
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