なぜ日本人には「人を下戸にする」D遺伝子が多いのか?酒好き池田教授の考察

 

私は今はたいそうな酒飲みだが、若い時から酒飲みだったわけではない。そもそも親父は基本的に下戸だったし、おふくろも酒を嗜むことはなかったので、子供の頃は自宅で酒を飲む人はいなかった。正月になると南千住に住んでいる父親の弟が自転車に乗って年始の挨拶に見えて、この人が結構な酒飲みで、親父はお正月だからと、お酒をふるまっていたが、酒飲みが嫌いなおふくろは早く帰って欲しそうなそぶりであった。

親父はほとんど酒を飲まなかったけれども、父方の祖父(私が生まれる数年前に他界した)は酒飲みだったと聞いているし、母方の祖父も酒飲みだったので(私が子供の頃はまだ存命だった)、私には酒飲みの遺伝子が入っているのだろう。下戸かどうかを決定する遺伝子は2型アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)遺伝子で、NN、ND、DDの3パターンがあり、NNはお酒に強く、NDはある程度飲め、DDは全くの下戸である。

日本人は56%がNN、NDが40%、DDは4%である(NDとDDを合わせた酒に弱い人は44%)。ヨーロッパ系の白人やアフリカ系の黒人は100%がNNで、酒が弱い人はいない。中国人は41%が酒に弱く、韓国人28%、フィリピン人13%、タイ人4%で、どうやら日本人が一番酒に弱いようだ。私の弟は全くの下戸なので、父親も母親もおそらく遺伝子の組み合わせはNDで、私は両親から共にNの遺伝子をもらいNNで、弟は両親から共にDの遺伝子をもらいDDなのだろう。

人類学的にはNNがデフォルトで、D遺伝子は比較的近年、東アジア人の中に現れたようだ。日本人に多いのは何か適応的な意味があるのだろうか。一説によれば、アセトアルデヒドが血中にあると、マラリア原虫や日本住血吸虫が体内で活動できないようで、これらの病原体が棲息する水田が多いところでは、下戸の遺伝子が有利になるという話だが、本当だろうか。そもそも下戸はお酒を飲まないことが多く、血中にアセトアルデヒドが増えることは余りないと思われるので、この説は疑問だ。D遺伝子は適応とは関係なく、遺伝的浮動の結果日本人の個体群中に拡がったのかもしれない。

ところで、人類はいつから酒を飲むようになったのだろうか。定かなことは余りよく分からないが、最古の酒はミード、ビール、ワインとか諸説ある。木の実やハチミツに酵母菌が入って偶然醗酵したのを見つけた人類が、試しに飲んでみたところから始まったのは確かなようだ──(メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』2024年1月12日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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