【太平洋を揺さぶる中国の存在】
目を太平洋、特に南太平洋に移すと、こちらでも「非核」という理念の結束が試される事態が起きています。
このニュースを見たとき、私が最初に思い浮かべたのは、以前、南太平洋の島嶼国の首脳たちと交わした会話でした。彼らが繰り返していたのは、「私たちは大国同士の対立に巻き込まれたくない」という切実な思いです。
7月6日、中国人民解放軍の原子力潜水艦が核弾頭を搭載可能な長距離弾道ミサイルを発射し、ツバルの排他的経済水域近くに着弾しました。
南太平洋の島嶼国は、かつてアメリカ、イギリス、フランスの核実験場とされた歴史から核兵器に対する警戒感が非常に強く、1986年発効のラロトンガ条約によって非核地帯を定め、地域における核実験の禁止と核の持ち込み禁止を保障してきました。それだけに、ソロモン諸島は中国に激しく抗議し、バヌアツやトンガからも「太平洋を核や軍事兵器と無縁の地域であり続けさせるべきだ」という声が上がりました。
そこでオーストラリアのアルバニージ首相は7月8日、太平洋諸島フォーラム(PIF)としてミサイル発射への共同非難声明を準備していることを明らかにしましたが、それから3週間以上が経った今も、その声明は発出されないままになっています。その背景には、キリバスやナウルといった中国との経済関係が深い一部の加盟国が、取りまとめに難色を示しているという事情があるようです。
両国はそれぞれ2019年と2024年に台湾と断交し、中華人民共和国との外交関係を樹立していますから、経済的な結びつきへの配慮が滲んでいるとの見方も出ています。ただ、核兵器禁止条約でも率先して「核兵器なき世界の実現」を主導してきたはずのキリバスがこうした態度を取っているのは、正直なところ、想定外という言葉がふさわしい展開です。
これは太平洋の小島嶼国が置かれている構造的なジレンマをよく表しています。
「安全保障の観点からは中国のミサイル発射に強く抗議したい。しかし、経済的な生命線を握られている以上、正面から対立するわけにもいかない」
この板挟みの構図は、太平洋の小島嶼国に限った話ではなく、世界中の中小国が大国間競争の中で直面している共通の悩みです。南太平洋における影響力拡大を狙う中国とオーストラリアの競争が激化していることも懸念材料として挙げられます。
しかし、残念ながら、南太平洋の小島嶼国は“大国間の対立”という「国際情勢の荒波」にしっかり巻き込まれ、漂流することになってしまいました。
中国はパプアニューギニアの国内にあった台湾の代表処の閉鎖を後押ししたほか、フィジー、キリバス、トンガなどとは法執行や警察官の人材育成でも協力関係を築き、影響力を拡大しています。
これに対抗するように、オーストラリアはパプアニューギニアと相互防衛条約を結び、ソロモン諸島との包括的な条約締結に向けた協議やバヌアツとの安保協定、フィジーとの相互防衛協定を進めています。
中国の王毅外相は「太平洋島嶼国との連携は共同発展を促進するためで地政学的な意図はない」と述べる一方で、「第三国の干渉を受けるべきではない」とも語っており、この二枚舌ともいえる言い回しには、オーストラリアの安保協力拡大を牽制する意図が透けて見えます。
8月末から9月初旬にかけてパラオで開かれるPIF首脳会議は、島嶼国の非核の結束がどこまで本物なのかを見極める、の試金石になりそうです――(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦が読み解く国際情勢の裏側戦略インテリジェンス・レポート』2026年8月7日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録ください)
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