【米イラン、停戦から次の局面へ-譲歩と消耗のはざまで】
イランを巡る報道だけでも、欧米、中東、アジアのメディアでは焦点の当て方がまったく異なります。同じ交渉でも、どの立場から眺めるかによって「前進」にも「行き詰まり」にも映る現実があります。その”焦点と認識の違い”を意識しながら、情報を整理していきます。
中東では、米イラン間の交渉が息をつく間もなく動いています。トランプ大統領は8月2日、イランとの戦闘終結交渉の再開に意欲を示し、ホルムズ海峡の問題についても核問題についても、合意が成立するとの楽観的な見方を口にしました。
ただし交渉期限は明確に定められておらず、「様子を見よう」という言葉にとどまっているあたり、まだ確固たる着地点が見えているわけではなさそうです。
8月4日から5日にかけて、米イラン間の協議についての動きはさらに加速しました。ルビオ国務長官はホルムズ海峡の管理を巡るイランとオマーンの協議について「近く合意することを望む」と述べ、戦闘終結に向けた最終合意についても「進展している」と説明しました。
ベッセント財務長官もCNBCのインタビューで、合意が「今日か明日にも成立する可能性がある」と踏み込み、その根拠として、イランの海空軍がすでに壊滅し、ミサイルの大部分が破壊されたことを挙げています。この発言が伝わると、WTI原油先物は一時1バレル75ドル台まで急落し、前日比で6パーセントを超える下げとなりました。ダウ平均も一時1,000ドルを超える上げ幅を記録するなど、市場は交渉の進展を素直に好感したかたちです。
オマーンやパキスタンと共に米イラン間の協議の仲介にあたっているカタールの外務省報道官は、米イラン間の外交交渉が「非常に進展した段階」に達していると明らかにし、カタール、パキスタン、オマーンの3か国が緊密に連携しながら、米イラン間の草案交換と間接協議を仲介していることを認めました。
カタールのタミム首長はトランプ大統領と電話会談し、6月中旬に両国が署名した覚書、つまり軍事行動の即時停止を定めた合意を守ることの重要性を強調したといいます。
今回の“合意”には明確な期限が設定されていないとのことですが、これは「交渉を焦らせすぎず、かといって間延びさせすぎない」という、絶妙な距離感を保とうとする仲介国側の工夫のようにも見えます。
しかし、正直に申し上げると、手詰まり感は否めません。ホルムズ海峡の支配を強硬に主張し続けるイランを譲歩させる決定打は、今のところ見当たらないのが実情です。
イラン側はオマーンとの協議について、「あくまで航路のルートに関するものであり、海峡開放の可否そのものではない」と繰り返し強調しています。米側が求める「海峡の即時かつ完全な開放」と、イラン側が求める「自国による海峡の完全な管理」というふたつの立場は、いまだに大きく隔たったままです。
興味深いのはAP通信が伝えた合意案の中身です。ペルシャ湾に入る船舶にはイランが管理する航路を、湾から出ていく船舶にはオマーンが管理する航路を通過させるという内容で、私には、実質的にイランによるホルムズ海峡の管理権を一定程度認める方向へ傾いているようにも映ります。アメリカはこれまでイランの支配権を頑なに認めない姿勢を貫いてきただけに、この案が実現すれば、事実上の譲歩と受け止められることになるでしょう。
イスラエルの軍事専門家であるダン・オルバック氏が指摘するように、交渉の初期段階で米側が大幅な譲歩を示したことで、イラン側に「さらに要求を引き上げても米側は応じる」という判断を許してしまった可能性は、私自身の紛争調停の経験に照らしても、非常に説得力のある見立てだと感じます。交渉というのは、最初にどこまで手の内を見せるかで、その後の力関係がほぼ決まってしまうものだからです。
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