核抑止が「新たな戦争の火種」になる皮肉。各国の“不信”と“軍拡競争”が「核兵器なき世界」を遠ざける恐ろしい現実

 

【ロシアの誤算-漁夫の利は得られなかった】

「米イラン間の軍事衝突が長引けば、ロシアが漁夫の利を得るのではないか」という見立てが、これまで多くの識者の間で共有されてきました。以前メルマガの中で私も、「中東情勢が長引けばロシアには追い風になる」と書きました。

しかし、状況が変われば分析内容も修正しなければなりません。ちなみに、国際情勢を読む上で最も危険なのは、自分の見立てに固執することだと私は考えています(これはビジネスの現場でも同じでしょう)。

実際に起きていることを見てみると、その皮算用は外れつつあるようです。原油価格の高騰と、アメリカによる対ロシア制裁の一部緩和による歳入増で、ロシアの財政が一息つけるはずだという予想は、期待ほどには実現していません。

JOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)の原田大輔調査部長の分析によれば、2026年4月のロシアの石油・ガス部門の歳入は9,080億ルーブルとなり、1月から3月の平均と比べて9割増となったものの、5月と6月にはむしろ減少に転じています。

その理由の一つは、仮に制裁が緩和されても、ロシア産原油は市場価格に対して1バレルあたり12ドルから20ドルを割り引いて売らざるを得ないという構造的な問題です。加えて、制裁を回避するための「影の船団」を維持するコストや保険料もかさみ、輸出量が増えても、それに見合うだけの歳入増につながらない理由だと考えられます。

さらに、ウクライナが今春以降、無人機を用いてロシアの製油所や積み出し港を集中的に攻撃していることも、石油製品の輸出減少に拍車をかけています。カザフスタン産原油の輸出拠点であるノボロシスク近郊の積み出し設備も攻撃を受けており、被害はロシア国外の周辺国にまで及んでいるのが実情です。

IEA(国際エネルギー機関)は、ウクライナの攻撃を理由に、ロシアの2026年の石油供給見通しを日量8万5,000バレル引き下げ、2027年についても日量15万バレルの下方修正を行いました。これが先日ご紹介したカザフスタンのトカエフ大統領がプーチン大統領に伝えた苦言の背景にある厳しい現状ではないかと考えます。

ウクライナ側の戦術にも注目すべき変化が見られます。ロシア最大級の通販企業であるワイルドベリーズ(通称“ロシアのAmazon”)の物流拠点への攻撃を強め、生活に密着したサービスに打撃を与えることで、市民の間に厭戦の空気を広げようとしているようです。

ロシアメディアによれば、同社の物流拠点面積の14パーセントがすでにウクライナの無人ドローン攻撃による被害を受けており、出店業者の損害は少なくとも2,000億ルーブルに達すると見込まれています。

軍事施設だけでなく、日常生活を支える経済インフラそのものが標的になっているという事実は、この戦争がすでに「前線」と「銃後」という古典的な区分を超えていることを示しています。

紛争が長期化すると、戦場は必ず生活空間へ広がります。交渉の席で停戦を急ぐ理由は、軍事的勝敗だけではありません。市民の日常が戦場へと変わってしまうからです。

出口が見えないまま、ロシアによるウクライナ侵攻からもうすぐ4年半が過ぎますが、ロシア・ウクライナが一進一退を繰り返しつつ、非常に厳しい消耗戦に囚われている現実が見えてきます。

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