【動き出したガザ和平と、その脆さ】
ガザ情勢では、7月31日、エジプト、カタール、トルコの仲介の下、トランプ大統領が主導するガザ暫定統治機関「平和評議会」が、これまで事実上棚上げになっていた計画を再始動させる行程表を発表しました。
15項目からなるこの行程表は、2025年にアメリカによって示され、国連安保理でも採択された和平計画の再確認から始まり、ハマスの武装解除、国際検証委員会による履行確認、国際安定化部隊(ISF)の展開、イスラエル軍の段階的撤退までを含む内容になっています。
米当局者によれば、ハマスはパレスチナ人技術官僚で構成される暫定行政組織に武器を引き渡し、200日から350日をかけて段階的に武装解除する方針だといいます。ハマスの報道官も日本経済新聞の取材に対し、武装解除を含めた行程表に合意したことを明かしました。
ただし、この合意にはすでに綻びが見えています。トランプ大統領は「イスラエルも行程表の内容に合意した」と述べていますが、イスラエル側は正式な声明を出しておらず、関係者の話として、イスラエルは提示された条件に満足していないと伝えられています。
和平実現の目玉と目される国際安定化部隊(ISF)の構成そのものも、大きな懸念材料です。
この部隊の中核を担うことを期待されているトルコの受け入れを、イスラエルが拒み続けている上、そもそもどの国がどれだけ部隊を出すのか、参加国が十分に集まるかどうかも、まだ見通せていません(当初、8,000人規模の部隊派遣を準備していたインドネシア政府も、米・イスラエルとイランの戦闘激化を理由に3月、派遣を延期すると発表しました。新たな日程はいまだ示されていません)。
ガザ和平プロセスの第2段階として予定されている「イスラエル軍の撤退とハマスの武装解除」は、いわば「鶏が先か卵が先か」という構造になっており、どちらも「相手が先に動くなら自分も動く」という姿勢を崩していません。
私はこのような状況を「同時不信」と呼んでいます。双方とも「相手が先なら応じる」と考えるため、誰も最初の一歩を踏み出せません。紛争調停とは、この膠着した状況をどう動かすかの仕事でもあります。
2023年10月7日のハマスの襲撃で251人が人質に取られ、1,200人を超える犠牲者を出したイスラエルにとって、「絶対的な安全が保障されない限り、ガザでの作戦を止めるという選択肢はあり得ない」というのが本音でしょう。一方のハマスも、「イスラエルが攻撃を止めない限り武装解除には応じられない」という立場を崩していません。
8月3日には、平和評議会のムラデノフ上級代表がネタニヤフ首相との協議後、「ガザ域内でのイスラエル軍撤退はハマスの武装解除完了後に初めて行われる」との見解を示しました。これはイスラエル側に歩調を合わせた内容と読み取ることができ、イスラエル軍の撤収を武装解除の条件とするハマス側の強い反発を招くことは避けられない状況です。
実際にイスラエル政府筋は、軍は「現在支配している地域から撤収せず、脅威の阻止を続ける」と明言しており、これに対して仲介国であるカタール、エジプト、トルコも8月3日の共同声明で、イスラエルのガザ攻撃が続き、連日民間人の死傷者が出ていることに強い非難を表明しました。
合意はできたものの、両者が互いの違反を指摘し合う構図はまったく変わっておらず、トランプ氏がどれだけ圧力をかけても、履行は難航を極めそうです。
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