まさに「猫の目」のように日々変化する国際情勢。ホルムズ海峡を巡る米国とイランの対立や停戦の形骸化、各国の安全保障政策の変化は、その潮流を象徴する出来事となっています。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の「無敵の交渉・コミュニケーション術」』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、中東情勢や欧州で進む安全保障の再設計、アメリカ外交の変容などを多角的に検証。その上で、軍事力だけでは解決できない現代の紛争において、国際秩序を支える制度設計や交渉の重要性について考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです
【ホルムズ海峡を巡る新たなパワーゲーム─世界は「戦争」から「海上交通路の支配」を競う時代へ─】
7月中旬、中東情勢は再び緊迫の度を強めました。しかし、今回注目すべきなのは、米国とイランによる軍事的応酬そのものではありません。
本質的な変化は、ホルムズ海峡という国際公共財を「誰が管理し、その安全を保証し、その対価を得るのか」という競争が、具体的な金額と制度をともなって表面化したことにあります。
第二次世界大戦後、世界経済は「自由航行の原則」を前提に発展してきました。国連海洋法条約をはじめとする国際法は、国際海峡において沿岸国が一方的に通航料を課すことを認めていませんが、今、この原則そのものが当事者双方によって崩されようとしています。
1.「守護者」を名乗り合う米・イラン
6月17日に署名された米・イラン間の覚書(MOU)は、60日間の交渉期間を設け、イランに対して「60日間は無償での商船の安全な通航に最善を尽くす」ことを義務付けていました。
しかし、この一文が「60日を過ぎれば料金を徴収してよい」という含みを持つと解釈されたことが、事態を複雑にしました。
7月7日、イランがオマーン領海内でタンカー3隻を攻撃したとされることを契機に、米中央軍(CENTCOM)は報復空爆を開始しました。トランプ大統領はNATO首脳会議の場で「覚書は終わった」と宣言し、イランを「病んだ連中」と呼び、激しく非難しています。
以降、7月9日、13日と立て続けに米軍による対イラン空爆が実施され、イラン革命防衛隊もヨルダン、クウェート、バーレーン、オマーンの米軍関連施設をドローンで攻撃するという応酬が続いています。
7月14日、米中央軍は前日に予告していた対イラン海上封鎖を東部時間16時に再開したと発表しました。トランプ大統領はこれと同時に、「米国がホルムズ海峡の守護者(Guardian of the Strait)になる」と宣言し、その「安全提供コスト」として通航貨物価額の20%相当を受け取るという、前例のない構想を打ち出しました。
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