誤算、後悔、すれ違い…216億円の名画購入をめぐるドタバタ劇

 

この場に呼ばれていないブッセンマーカー文化相は、非常に厄介な立場に追い込まれる。

突然、美術館と政府が資金を半分ずつ出し合って2枚とも購入するという話になり、その一方で、フランスのペルラン文化相と交わした約束にあいまいなところがあり、さまざまな解釈ができたせいで自らの首を絞めることになった。完全に板ばさみである。

悲劇が幕を開けた。ブッセンマーカーから「オランダ政府がアムステルダム国立美術館に資金援助する」と聞かされたペルランは激昂する。
そして、ここ半年は出てくる気配のなかった108億円を、フランス中央銀行からすぐに調達し、「“私”の取り分はいただきます」と要求したのである。さらには一方…ともすれば両方の肖像画の輸出を禁止する可能性までちらつかせた。ブッセンマーカーは、オランダでの展示が完全に不可能になる結末を恐れ、フランスとの共同購入に同意するしかなかった。万事休すである。

結果的にペイベス館長は、その大胆さで、フランスとオランダの両政府から108億円ずつを引き出しおおせたことになるが、2枚の肖像画を完全にアムステルダムに引き取るという、自ら描いた「現実的な夢」を台無しにしてしまった。ルーブル美術館にレンブラント展の開催権を提供するなど、もう少しうまく駆け引きをしていたら、今以上の成果が得られたかもしれない。

名声といらだち、自己顕示欲に駆られ、オランダは108億円を出して2枚組の肖像画の半分を獲得するに終わった。

この物語の最終幕では、若き婚約者たちの肖像画が引越しトラックに積み込まれ、アムステルダム国立美術館とルーブル美術館の間を未来永劫往復することになる。妥協と不運の結末である。

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