誤算、後悔、すれ違い…216億円の名画購入をめぐるドタバタ劇

 

気がすまない党首たち

政府のテコ入れで2作品とも手に入れられる見通しが立っていただけに、関与した党首らは落胆の色を隠せない。

しかもアムステルダム国立美術館は一銭も出さないと言い出した。2点とも購入することを前提条件に、同美術館とオランダ政府が半額ずつ用立てる約束だったのだから、必然的といえば必然的である。館長も半年間奔走して各種財団から出資の約束を取り付けてきたが、蘭仏共同購入が決定して大前提が崩れたため、すべての財団が手を引いてしまった。最大の資金提供者だった、132年の歴史を誇るレンブラント協会(会員数約1万2000人)も6億7500万円の支援を撤回した。

オランダの政界では「まんまとペイベス館長にしてやられたのではないか」という憶測も飛んでいる。

秘密裏の会合で政府の合意を得た館長にしてみれば、とりあえず1枚は購入できる目処が立ち、うまくすれば両方を確保する展開も見えてきた。また、合意という既成事実によって、いつまでたっても資金を準備しないフランス政府に圧力をかけることもできた。もし彼が購入にこだわらず、2作品の自館展示を実現させることだけを目指していたのだとしたら、身銭を切らずに目標達成できた今回の結末は、彼の一人勝ちにも見える。

また、以前から共同購入の交渉を担当してきたブッセンマーカー文化相にも批判の眼差しが向けられている。フランスとの交渉が一向に進捗しないことは本人が一番よく把握していたはずで、それを理由にもっと前の段階で計画自体を凍結させる決定もできたはずだ、というわけだ。

この結末に、例外的に納得しているのは、例の会合をお膳立てした民主66党首くらいである。「2枚ともオランダで所有できたら申し分なかったけれど、両国で共同購入できたことも素晴らしい。国立美術館が資金を拠出できないのも、まったく無理からぬことだと思う。両国政府で半分ずつ出すのだから、民間資金の介在は必要ない」

オランダ政府の中では、文化省が40.5億円、財務省が67.5億円を捻出する見通しだ。ダイセルブルーム財務相は当初「なぜ国が全額負担しなくてはいけないのか」と、個人や財団にも出資を求める姿勢を見せたが、じきに態度を軟化させた。「前提と異なる状況になったので、美術館が手を引いたことは理解できるが、出資を求める考えに変わりはない。象徴的な額面でもいいと思う」

しかし、少なくとも数名の党首が、文化相から事実関係の説明を聞いたうえで、美術館に対する見解を示したいと述べており、まだ火種が消えたわけではない。

ただそんな党首たちも、美術館と文化相をつつくことに気を取られていると、足元をすくわれるかもしれない。

美術史家である某美術商が、巨額の税金の使途を短期間で決めてしまった党首たちの判断について、専門的な見地から鋭い分析を加えているのだ。

いまどきの名画取引事情についても知ることのできる興味深い内容なので、後編でご紹介したいと思う。

(オランダ・アイントホーフェン郊外 あめでお)

image by: Shutterstock

 

『出たっきり邦人【欧州編】』
スペイン・ドイツ・ルーマニア・イギリス・フランス・オランダ・スイス・イタリアからのリレーエッセイ。姉妹誌のアジア・北米オセアニア・中南米アフリカ3編と、姉妹誌「出たっきり邦人Extra」もよろしく!
<<最新号はこちら>>

print
いま読まれてます

  • 誤算、後悔、すれ違い…216億円の名画購入をめぐるドタバタ劇
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け