夫婦同姓違憲訴訟の最高裁判決、新聞各紙はどう伝えたか?

 

読売社内の激論状態を反映?

【読売】は1面に続き、判決要旨を含む8つの関連記事。1面と3面の解説記事「スキャナー」の主要部分は、2003年入社の小泉朋子記者(社会部。30代とみられる)が書いている。

合計9つの記事の中で、注目した見出しは3面解説記事「スキャナー」で、「最高裁家族を重視」というもの。判決のなかで「家族を構成する個人が同じ姓を名乗り、家族の一員だと実感することには意義がある」と述べたことに対応させたもの。

記事の論旨で特徴的なのは、長官らの多数意見の中に、「国民の間で価値観の分かれる家族の問題を司法が判断するのはなじまないとの思いもにじんだ」としているあたりか。記者は、「あくまで個別の訴訟に向き合うだけの裁判所が、制度がもたらす社会的な影響や国の将来像まで考慮に入れるのは難しいためだ」と説明する。同時に、大法廷が「同姓制度に手放しでお墨付きを与えたわけではない」ことにも注目を促し、普及したといわれる「旧姓の通称使用」についても、「住民票など多くの公的書類は依然として戸籍名しか使えず、不都合を感じる場面は多い。ほとんどの場合、こうした不都合は女性が被っている」と書いている。記者自身の経験を反映させた文章のように読める。

uttiiの眼

小泉記者は、1面の解説のところでも興味深いことを書いている。「5人の裁判官が『違憲』判断に回ったことからも、大法廷で激論が交わされたことがうかがえる」という記述、「来年から利用が始まる共通番号(マイナンバー)で本人確認がしやすくなれば、公的書類での通称使用を広げることも可能で、同姓規定の改正は当面遠のいた」という指摘、いずれも、ユニークな内容だ。こういう記事は読んでいて楽しい。

ただし、関連記事全体を眺めた場合、《読売》はこの問題で混乱しているように見える。モザイク的乃至キメラ的なものを感じる。保守主義的な憲法学者である百道章氏や八木秀次氏を登場させて、伝統的な家族主義的価値観を吐露させる一方で、「夫婦同姓違憲訴訟」原告の論旨も詳しく紹介し、寄り添う姿勢も見せている。多様な見解を紹介するのはよいことだが、この場合、裁判所が出した論理そのものについては、見えにくくなっているのではないか。例えば、社会面の記事は見出しを「『同姓』の利点評価」として、裁判所の合憲判断の論理を紹介しているが、末尾に麗沢大学の八木秀次氏のコメントを紹介。「夫婦同姓という制度こそが、家族の絆や一体感を支えているという実態を十分に踏まえている」と評価させている。裁判所は伝統的保守主義の牙城でないことはもちろんだし、今回は、同姓制度のデメリットや別姓のメリットなども理解した上で、現状を大きく変更する力を持つ違憲判断を回避したのが実態であって、八木氏の見解とはもともと近くないのではないか。最高裁の多数意見を八木氏とシンクロさせるのはお門違いだろう。

また、「スキャナー」の見出しが「最高裁『家族』を重視」となっているのは大きな問題。こうした単純で過度に要約的な見出しは危険きわまりない。原告は、大切な家族の中で、自らの本来の名前を使用することを制限され、権利を侵され、大切にされていない家族としての女性配偶者の救済を求めているわけで、その原告の主張を否定することが「家族」の「重視」だと言われたら、立つ瀬がない。何より、最高裁の主張はそんなに単純ではない。

小泉記者のような有能な記者と、見出しを担当するシニア記者や編集幹部との間に、「激論が交わされ」ていることを望みたい。

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