人気うなぎのぼりの小池知事にとって最大の武器は、情報公開という名のテレビ劇だが、別の言い方をすれば、他の三者に対抗するにはそれしか手立てはないということだ。四者協議が公開で行われ、あくまで長沼ボート場案を主張して、それが叶わなかった場合、彼女のソロバン勘定からいうと、マイナスであろう。
ボート・カヌー会場について「都として、あんまり決め打ちで決めるのはどうかと思う」と小池知事は急にトーンダウンしてしまった。森喜朗としてはいささか溜飲が下がったかもしれない。
振り返れば、自民党森派に所属していたころから小池は森の言うことを聞かず、それを森が批判するという一幕が繰り返されてきた。代表例は、2008年の自民党総裁選だ。森の反対を押し切り、中川秀直元幹事長の支援で小池は総裁選に立候補した。2010年に小池が党総務会長に就任したさいに森は「ただ権力に就きたいだけだ」と小池を批判した。
森は今回のバッハ会長来日で、得意の根回しワザを駆使し、ほぼ思い描くシナリオ通りにコトを運んだ。水面下の調整を用いた旧来型の劇場政治ともいえよう。
小池知事は根回しが苦手なのか、嫌いなのか、とにかく手順をショートカットして、いきなりテレビ映りの威力で解決をはかろうとする。新しい劇場政治のあり方を実験しているようにも見える。その手の政治家の典型と思えた小泉純一郎や橋本徹でさえも、小池の徹底した見栄え戦略にはおよばない。
公開される予定の四者協議が、はたしてどちらのペースで行われるのか。「海の森」のコストダウン案あたりを落としどころとし、テレビカメラがまわる四者協議は単なる友好セレモニーに終わりそうな気もするが、ぜひとも小池知事にはガチンコでのぞんでほしいものだ。
『国家権力&メディア一刀両断』 より一部抜粋
著者/新 恭(あらた きょう)
記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。
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