この盛り上がりの余韻もさめぬうちに、読売新聞が「2島返還」を最低条件とするという前掲の記事をぶち上げたのである。
もう、話がほぼまとまっているのか、と思わせるタイミングだった。しかもスクープのように見せかけたその記事の掲載紙が、いまやイズべスチアや人民日報のような政権PR新聞になっている読売だったから、なおさらだ。
官邸の誰かにリークさせているがゆえに、その日の記者会見で菅義偉官房長官は「そうした事実は全くない。4島の帰属問題を解決し、平和条約を締結していく」と否定してみせた。リークの目的が世間の反応をうかがうためなら、肯定するはずもない。
さてこうなると、日露交渉には何回も騙されて懲りているはずのメディアが「今回はいよいよか」と、妙に浮足立ってくる。
とりわけ驚かされたのは週刊ポスト10月14、21日合併号の記事である。タイトルは「北方領土が本当に、戻ってくる!」だ。
前文にはこう書いてある。
…どうせ戻ってきやしないと諦めていなかったか。だが戦後70年を過ぎた今、いよいよ本当に戻ってくる可能性が現実味を帯びてきた。
そして同号では、かつて日露交渉を担った外交官で、今は作家として超売れっ子の佐藤優さえもが、週刊ポスト編集部の熱気にあてられたのか、やや興奮気味な筆致の記事を寄稿した。
安倍政権が、北方領土政策の大転換に踏み切ろうとしている。…この大転換
によって、北方領土交渉は一気に動き出す可能性がある。
「2島返還」への期待感に水を差す右派新聞もあった。
北方四島はソ連が先の大戦の終結前後、日ソ中立条約を破って武力占拠した
ものだ。2島返還では済まされない。
(10月19日産経新聞 主張)
国内には「2島先行返還では国後、択捉が永久に戻ってこなくなる」という反対論が根強い。産経社説は、あくまで4島に固執する意見に配慮した内容だ。
しかし、逆に言うと、この産経社説が出た時点までは、まだ「2島返還」への期待が盛り上がっていたということだ。そうでなければ、安倍シンパが政治部を牛耳る産経があえて安倍のやっていることにケチをつけるような真似をしないだろうからである。