安倍外交、敗れる。北方領土の「もしかして」はなぜ起きたのか?

 

急速に安倍官邸の空気が変わりはじめたのは、10月の末ごろからだ。12月の日露首脳会談が近づくにつれ、事務レベルでの詰めの話し合いがもつれてきたのではないだろうか。

早期解散をほのめかす発言を続けてきた自民党の二階幹事長も「直ちに解散をどうこうとは、安倍首相の念頭にないだろう」と解散否定に転じた

11月8日に、大統領選でプーチンを礼賛してきたトランプが次期米国大統領に決定したことは、官邸の焦りをつのらせた。ビジネス上の取引で米露が接近すればプーチンの視界における日本の存在感が薄れるのではないかと、北方領土交渉への影響を怖れたのだ。

トランプ優勢の情報を受けて、安倍外交の絵を描いている谷内正太郎国家安全保障局長がモスクワに飛んだ。その直前に訪露した世耕弘成経済産業相がロシア側の熱が冷めている印象を官邸に伝えたからだろう。公式発表された首脳会談の事前打ち合わせ、環境整備だけが目的ではなく、ロシア側の本音を探る意図も谷内にはあったにちがいない。

11月22日、ロシア太平洋艦隊が、択捉島国後島へ地対艦ミサイルを配備したことが明らかになり、いよいよ情勢は厳しくなった。

安倍官邸は、北方領土に何の進展もないまま首脳会談を終えることを前提に、何とかして会談を成功したように見せかける方法を考えねばならなくなった。

プーチン大統領と共同記者会見し、重要な合意があったように印象づける政治ショーを繰り広げるため、それこそ入念な事前準備を事務レベルでしておかねばならない。メディアに配布するペーパーを何通りか作文しておくためにも、ロシア側の本音をつかんでおきたかったはずだ。

首脳会談直前、読売新聞と日本テレビがプーチンへのインタビューに成功したのは、安倍官邸がプーチンの本音を探らせる目的でロシア側へプッシュしたためではないだろうか。

そのインタビューで飛び出したのが、「日本はロシアへの制裁に加わった。制裁の中でどうやって経済関係を新しいレベルに高められるだろうか」という、日米同盟の制約を逆手に取った日本政府への牽制発言だ。

このインタビューで安倍官邸は、両国の考えの食い違いをできるだけ隠し、安倍・プーチンの親密さをアピールして将来への期待感を持たせる作戦に完全にシフトした。

共同声明をまとめるようなことはせず、共同記者会見でそれぞれの国民向けに成果をPRする。そんな段取りでセレモニーは進められた。

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