安倍外交、敗れる。北方領土の「もしかして」はなぜ起きたのか?

 

安倍首相は報道関係者に日本側の資料を渡したうえで、演説した。

ウラジーミル。ようこそ、日本へ。…日本人とロシア人が共存し、互いにウィン・ウィンの関係を築くことができる。…この新たなアプローチに基づき、今回、四島において共同経済活動を行うための特別な制度について、交渉を開始することで合意しました。…これは平和条約の締結に向けた重要な一歩であります。この認識でも完全に一致しました。私たちは平和条約問題を解決をする。その真摯な決意を長門の地で示すことができました。…本日、8項目の経済協力プランに関連し、たくさんの日露の協力プロジェクトが合意されました。日本とロシアの経済関係を更に深めていくことは、相互の信頼醸成に寄与するものと確信しています。

医療施設、エネルギー、極東開発、先端技術協力など8項目の経済協力プランに日本の企業がどれだけ参加してくれるかが、プーチン大統領にとっての最大の関心事である。

平和条約の締結に重要な一歩を踏み出した」というのは、安倍首相の強調したい今回の首脳会談の意義だろう。

だが、カネが欲しいロシアと領土を返してもらいたい日本。その両国首脳によるトップ会談を利用した同じような政治宣伝は、橋本龍太郎や森喜朗らによりこれまで何度も繰り返され、結局は何ら進展していない

1956年の日ソ共同宣言で、平和条約締結後に「歯舞、色丹の2島を日本に引き渡す」ことが盛り込まれたにもかかわらずダレス米国務長官の「恫喝」で日本政府が4島一括返還に主張を変更して以来、平和条約を結べないまま現在に至っている。

その間に繰り返された返還交渉で、「4島一括」だ、いや「2島先行」だ、「返還」だ「帰属」だと、さまざまな言葉を使ってきたが、それらは本質的なことではない。

いったん奪った領土は返さないロシアと領土を戻してほしい日本がそこにあるだけなのだ。それにあえて付け加えるなら、防衛上の思惑だ。

日本は防衛政策上、ロシアに中国の肩を持ってもらいたくないし、南で中国、北でロシアという二方面の軍事作戦が必要な事態は絶対に避けたい。それゆえ、ロシアと友好関係を築くことには意味がある。だが、ロシアとの経済協力にはサハリン1、2の海底資源開発で苦い経験をするなど、不安がつきまとう。

ロシアとしては、今回の首脳会談後の記者会見でプーチン大統領が「日米の特殊な関係性を考慮する必要がある」と言及したように、北方領土をたやすく日本に返還できない理由がある。そこに米軍基地ができた場合、ロシア太平洋艦隊の海上ルートを塞がれるだろう。日本からのカネは欲しいが、領土の返還はきわめて難しい。

誰もがこうした困難さを知っているはずなのに、日本が「2島返還に政策転換すればロシアはすぐに乗ってくるかのごとく甘い見通しを発信したメディアが目立った。乗り遅れたくないという商業ジャーナリズムのサガがそうさせたのだろうか。

安倍首相は「4島において共同経済活動を行うための特別な制度」をつくる協議を日露間で始めるというが、どんな制度がイメージできるだろうか。これこそが、中身がなくともあるように見せかける作文である。

image by: 首相官邸

 

国家権力&メディア一刀両断』 より一部抜粋

著者/新 恭(あらた きょう)
記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。
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