【書評】手紙の文字を書き分ける仕掛けに感動。代書屋物語が面白い

 

借金の申し込みをバシッと断る手紙、還暦の(苦手な)義母へのプレゼントに添えるメッセージ。代書仕事はいろいろな人の心や体になりきって文字を綴る。天国からの親父の手紙を、高齢でちょっと呆けた母あてに書いて欲しいという心温まる話もある。なぜか関係が微妙になったお茶の先生への、最大限の礼儀をつくした絶縁状。女から女へ、未来永劫まで変わらない決意をこめた絶縁状。それぞれの手紙やメッセージは、手書きの実物が図版で示される。それがまた、じつに文面に合った表情の文字で、じつに感動的なしかけである。その字は映画美術で活躍中の「字書き」萱谷恵子の手になる。みごとな書き分けである。

手紙には作法やお約束がある。手紙は自分の思いを正確に届けると同時に、相手がそれを受け取った時に気分を害さないということも重要だ。といわれると、慚愧の念がモヤモヤと湧き上がる。出さなければよかった女友達への手紙がある。メールだって同様である。いまだに失敗が続く。その度に反省ばかりしている懲りない私である。この作品の中で、女から女へ絶縁状が凄まじい。文面も厳しいが、なんと手書きの鏡文字という悪意を込めているのだ。わたしは鏡文字は苦もなく読める。たいていの漢字は袋文字で一気に書ける。この異能に気づいたのは中学生のときだ。それが役に立ったことは、まだない。

編集長 柴田忠男

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