【書評】手紙の文字を書き分ける仕掛けに感動。代書屋物語が面白い

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代書屋というお仕事をご存知でしょうか? 依頼人になり代わり手紙をしたためるというこの職業、今ではほぼ見かけることはありませんが…、そんな代書屋を通して人の縁を見事に描いた1冊の物語を、無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の編集長・柴田忠男さんが紹介しています。

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ツバキ文具店』小川糸・著 幻冬舎

小川糸『ツバキ文具店』を読んだ。主人公・雨宮鳩子(ポッポちゃん)は鎌倉のツバキ文房具の店主で代書屋である。お隣さんは見かけは100%日本人なのに、なぜかバーバラ婦人と呼ばれている明るく元気な高齢者だ。婦人? キュリー夫人、ボヴァリー夫人、赤毛のアンのリンド夫人、オバマ夫人……普通は「夫人」だろう。違和感あるがまあいい。持ち込まれるさまざまな代書依頼に、ポッポちゃんがどう対応しどうやって仕上げていくのか、そのプロセスは非常に興味深い。代書にかかわるあらゆること、ものにいちいち蘊蓄が語られるが、こういうのは嫌いでない。文字に関わるものは面白い。

最初の仕事はお悔やみ状である。細かなルールが語られるが納得できる。亡くなったのは家族同様の猿だったが。香料にお悔やみ状を添えて書留郵便で送る。依頼主はお悔やみ状の文面も体裁も知らない。この代書屋は依頼されたテーマを全力で書き上げ発送まで担当する。依頼主は原則としてその成果物を見ることがないという不思議なシステムだ(いくつか例外もある)。自分で自分の気持ちをすらすら表現できる人は問題ないが、そうでない人のために代書をする。そのほうが気持ちが伝わることもある。かつて恋仲だったが離ればなれになった幼馴染みに、ひとこと、僕も元気だと伝えたいという手紙もいい味だ。

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