過去には日系人も被害者に。トランプが連発する「大統領令」の恐怖

 

例えば、Executive Order 9066 というのがあります。これは、第二次世界大戦のときに、日本からのテロ行為などを警戒してアメリカに住む日系人の強制収容を決定した命令です。これによって、アメリカの日系人は強制収容所に連行され、経済的にも精神的にも大きな損害を被りました。この命令は違法であったとレーガン政権の時に、アメリカ政府は日系人の人々に正式に謝罪し、補償を行いましたが、それは戦争が終わって43年も経過してのことでした。

ここに見出しで紹介したように、今回イラクなどの特定の中東諸国からの入国や難民の受け入れを厳しく制限するExecutive Order が布告され、実行に移されました。これは、Executive Order 9066 を思い出させる極めて違法性の高い命令ではと疑われます。日系人のケースは戦争時の防衛上のニーズによるものということで、正当化されていました。アメリカが人種差別を撤廃し、民主主義国であるとしても、戦争や戦争に準じる緊急時には、このようなExecutive Order が正当化されるのです。

では、Executive Order はどのように監視されるのでしょうか。それは民主主義国家の基本である三権分立の制度に従って監視されることになります。

Executive Power、つまり行政上の権力の行使が合法かどうかは、立法機関が常に監視しなければなりません。
Legislative Power、つまり立法権が法律によってその行為を規制するわけです。
また、Judicial Power、つまり司法権が大統領の行為の違憲性などを審査することも可能です。

例えば、海外と条約を締結するとき、その交渉を行うのはExecutive Power、すなわち行政機関ですが、それを国内法として批准(承認すること)するのは議会の役割なのです。実際に、第一次世界大戦の悲惨な経験から国際連盟が設立されたとき、その立役者となったのはアメリカのウイルソン大統領でしたが、国際連盟への加盟の条約が議会で否決され、アメリカが連盟に加わらなかった例もあるのです。

つまり、三権分立の制度の中で、それぞれの機関が単独で行動しないための相互監視機能が働いているのです。この権力の均衡のことをThe balance of power といいます。

実は、アメリカの大統領はThe balance of power の原則に従って、司法権に対して、連邦最高裁判所の判事の任命権を持っています。最高裁判事は終身で、欠員がでれば、大統領が任命できるというわけです。また、大統領は立法行為に対する拒否権vetoも有しています。vetoを行使したときは、議会はそれに対抗できますが、法律を成立させるには議会の3分の2以上の賛成が必要となるのです。

こうしてみると、いかに立法権と司法権が行政権に対して監視を強めることができるとしても、大統領令Executive Order を覆すためのハードルは決して低くはないことが理解できたと思います。

大統領がExecutive Order も含め、違法行為によって権力を行使すれば、それは当然弾劾 impeachment の対象になるでしょう。しかし、これにも相当の手続きが必要です。過去に大統領が弾劾されかけた事例がないわけではありませんが、実際に大統領が罷免されたケースはありません。ニクソン大統領がウォーターゲイト事件で選挙時の盗聴行為を司法委員会が糾弾し、大統領自らが辞任したことが、唯一弾劾に近い事例としてあげられている程度です。

ですから、日本の政府、メディア、そして一般の人々も含め、アメリカのExecutive Orderは直接間接に日本の経済活動にまで影響を与えかねない重要な命令であるということを、ここであえて確認しておきたいと思うのです。

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【著者】 山久瀬洋二 【発行周期】 ほぼ週刊

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