奇跡の発明。「金芽米」「無洗米」を生み出したコメ業界のエジソン

 

発明はお米だけじゃない~野菜をおいしくする「米の精」

とがずに炊ける手軽さで世にすっかり浸透した無洗米。実はこれも雜賀が生み出したものだ。普通に精米した白米は、洗わないと糠くさい。原因は米の表面に残っている肌糠。粘着性があるので洗わずに取るのは不可能と言われていた。

雜賀はこの難問も15年かけて解いた。57歳にして、水を使わずに肌糠を取り除く精米機を作り上げたのだ。無洗米用に精米した米を見ると、肌糠がきれいになくなっているのが分かる。1991年、東洋ライスはこの画期的な無洗米を世界に先駆けて発売した。

さらに無洗米の開発を通じて、驚きの商品も生み出した。

山梨県北杜市の野菜農家、井上能孝さんが畑に撒いているのは東洋ライスの有機肥料米の精」。それをひとつかみ口に入れた井上さんは、「人間が食べても無害だから植物にとっても安全性が高い。食べると甘いんです」と言う。

原料は無洗米を作る際に取り出した肌糠だ。井上さんは化学肥料も農薬も使わずに野菜を育てている。「米の精」は有機農家に大人気で生産が追いつかない状況なのだ。

「もともとは山林で土がカチカチだったのですが、『米の精』を使うようになってからフカフカになりました」(井上さん)

フカフカにしてくれるのは、様々な菌。「米の精」には土の中の菌を活性化させる特性があり、土を柔らかくするだけでなく、アミノ酸やビタミン、ミネラルなども作り出してくれる。当然、野菜にもいい影響が。植わっていた小カブを抜いてみると、ヒゲのような根っこが長く伸びていた。

「土がフカフカになって根がしっかり伸ばせるような環境ができたんです。水分や栄養分を野菜がしっかり吸収するようになったと思います。味も『米の精』を使うようになってから甘さが出るようになりました」(井上さん)

東洋ライスの技術から、お米だけでなく、おいしい野菜も生まれていた。

ジリ貧農家を救う金芽米~日本の高品質米を海外に

去年7月、東洋ライスの米が世界一高額なお米としてギネスに載った1キロ1万1304円。普通の米のおよそ30倍だ。中身はコシヒカリなど6品種を、独自の技術でブレンド、熟成させたもの。ひと月で275キロが完売した。

「米と卵はとにかく安すぎる。もっと高くても価値があると思うんです。生産者も米が高く売れるようになれば意欲も出る。そうしなければならないと考えています」(雜賀)

高い技術力で米の価値を上げる東洋ライスは今、日本各地の農家と手を組み、米農家の後押しにも動き出している。

その一つが鳥取県の若桜町。山間に棚田が広がる昔からの米の産地だが、近年は厳しい状況に陥っていた。ご多分に洩れず過疎化が進み、米の作り手は減る一方。米の生産量もジリジリ減り続けていた。

しかし5年前、突然V字回復を果たす。実は「タニタ食堂の金芽米」用に東洋ライスが買い上げを始めたのだ。

「東洋ライスさんがいなかったらただの米になってしまうと思いますが、若桜の米にも付加価値がついたかなと」(小林昌司町長)

「消費が少ないこの世の中で、たくさん売ってもらえる。本当だったら減反とか荒れた田んぼが出るはずだが、そういうところがないんです」(農家の浅井裕さん)

現在、金芽米の原料となる米の産地は全国20県以上に拡大。有名品種だけでなく、およそ30種類もの米が採用されている。さらに東洋ライスは苦しい状況にありながらいい米を作っている産地に積極的に声をかけ提携先を増やしているのだ。

そして今年から始めた新たな取り組みも。この日、島根県安来市で集められたのは、無農薬で米を作っている農家だった。彼らを前に、東洋ライスの阪本哲生副社長は「日本と海外だと商品の選び方が少し違うんです。海外の米の売り場に行くと、オーガニックがすごく増えている」と語る。

海外市場をにらみ、無農薬の金芽米を作ろうというのだ。既に世界11カ国に販路を切り開いた。健康志向が強い海外で、日本のおいしく安全な金芽米をアピールしていくつもりだ。

米農家の河津幸榮さんは、「ぜひここで取れた『きぬむすめ』が東洋ライスさんの技術とマッチして、世界中の方に食べていただきたい」と言う。

米と米農家の新たな未来を、東洋ライスは作ろうとしている。

発明王の自信作~「新玄米」が赤ちゃんとママを笑顔に

今でも知恵をしぼる雜賀は一昨年、81歳にして新しい発明も。それが「金芽ロウカット玄米」だ。金芽米の技術を玄米に応用したこれまでになかった米だと言う。

一見、普通の玄米だが、栄養価の高さはほぼ玄米なみで、白米のように食べやすい米を実現した。

この新しい玄米に注目し、いち早く導入したのが東京衛生病院。去年の秋から病院給食に金芽ロウカット玄米を採用し、手応えを感じていると言う。

「普通の玄米はどうしても独特の硬さや香りがありますが、これは白米に近い食感食べやすさがある。特に産科の方を中心に使うようにしています」(栄養科・渡邉恵一さん)

出産直後の母親たちからも「食べやすい」「おいしい」と好評を博している。雜賀の発明がこんな命の現場にも届き、笑顔を生み出していた。

数々の発明に成功してきた雜賀だが、戦争中だったため、「学校教育を受けたのは小学校1年生と中学校3年生のときだけ」だと言う。そんな雜賀はスタジオで「発明にとって何が一番重要か」と問われると、「知恵」と言い切っている。

いまの学校教育は、知識は植え付けるけれど、知恵を鍛える教育はほとんどないんじゃないかと思う。知恵を鍛えることは誰でもできる。苦労させれば一生懸命、頭を使いますから、知恵を磨くことになると思います」

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