巧みに隠蔽された巨額の超過コスト
S&Wは、もともとはアメリカの建設会社大手のショー・グループが所有していました。東芝は、このショー・グループからS&Wを買収したのです。
買収する際、S&Wの持ち主であるショー・グループは、S&Wには10億ドル以上の運転資金があることを約束していました。10億ドルの運転資金があるということは、10億円の黒字があるということです。
東芝は、それを信じてS&Wを買収したわけです。
そして、アメリカの監査法人なども、ちゃんとそれを証明しているのです。
なのに、なぜS&Wは超過コストを抱えていたのでしょうか?
実は、S&Wは、東芝(WH)から買収される時点では、「会計上の超過コスト」は発生していなかったものと思われます。
S&Wの損金が発生するのは、電力会社が固定価格オプションを発動してからなのです。
前述したように、スキャナ電力は、東芝がS&Wを買収した時点で、固定価格オプションという契約を結びました。しかし、この固定価格オプションは、しばらく発動されませんでした。発動するかどうかは電力会社に委ねられていたのです。
つまり固定価格オプションは、まだS&Wの買収時点では「有効」にはなっていなかったのです。
S&Wは、買収された時点で、潜在的に70億ドル程度の損失を抱えていましたが、固定価格オプションが発動されていないので、この損失は、帳簿上はまだ損失という扱いにはなっていなかったのです。
S&Wの原発建設による追加費用は、当初はS&Wにとっては売上として計上されていたはずです。S&Wは、建設業者であり、建設工事が伸びたり、追加工事が発生すればその分、売上が増えることになります。だから、工事の遅延代金や追加工事の代金は、当然、売上に計上されていたはずです。
この追加代金は、電力会社が払うかも知れないし、WHが払うかもしれない。が、いずれにしろ、S&Wにとっては、追加工事は「売上」であり、損失ではなかったのです。
が、東芝が買収してから半年後、スキャナ電力は固定価格オプションを発動しました。
これにより、追加工事の費用のほとんどがWHにつけられることになります。WHにつけられるということは、つまりは東芝につけられるということです。
この時点で、S&Wは東芝に7000億円の損失をもたらしたのです。
だから、売り主のショー・グループとしては、「売却する時点では、70億ドルの損失はなかった」と強弁できないこともないのです。
こうしてみると、アメリカの電力会社とショー・グループは、一体となって東芝をはめたとしか見えないような構図です。