カウンターでは包丁の使い方も変わってくる
ロブション氏と同様、日本人でも一流の料亭で働いていた料理人が、自分で店を持つときにはカウンター形式を取り入れる例がある。「吉兆」で料理長までしていた穴見秀生さんは、大阪で「本湖月」というカウンター中心の割烹料理屋を開いた。穴見さんは言う。
大きなキッチンで働いているときは、要するに最後の仕上がりが綺麗であるかどうかが勝負でした。多少切り身の切り方がおかしくても、仕上がりがよければ良かったのです。
(同上)
お客さんの目の前にある料理カウンターでは、また板も常に綺麗にしています。水を打って。しかし調理場では、そんなことまでは必要なかった。鯛の頭を落とすにしても、料理カウンターでは、お客さんに何か飛ぶようなことがあってはいけないと、包丁の使い方が調理場とは違ってきます。
(同上)
このように、調理のプロセスがすべて客の目の前で行われること、そして客が食べるときに満足しているかどうかを、調理人が目の当たりに出来ること。要はそれだけカウンターは、キッチンに比べて真剣勝負なのだ。料理人道を歩む職人であれば、カウンターに挑戦したくなるのも当然であろう。
「僕はまだここで働き始めて半年」
本稿では、料理人道の最先端を行く達人たちの話が中心となったが、わが国の「道」とは初心者にも容易に入っていける広い入り口を持っている。
大阪のホルモン屋でアルバイトをしている20代の青年は次のように書いている。
僕がアルバイトしているホルモン屋はとにかく熱い! 情熱を持ってお客様へ最高のおもてなしを心がけています。
僕はまだここで働き始めて半年。仕事の流れも徐々に把握できて今はいかにお客様にどう接するかを考えながら働いています。
先日男女2人組のお客様が来店されました。店内をキョロキョロしているところを見ると初めてのご来店だなと思い、「はじめてのご来店ですか?」とお尋ねすると「噂には聞いていますが来るのは初めてで」というようにワクワクされていました。
お席に通した後もそのお2人が楽しく美味しく召し上がっておられるか気になって気になって、時より声をかけると「おいしいです!」と超笑顔で言って下さいました。
それならお返しに「おいしいいただきましたーーーー!!!!」と僕が言い、「ありがとうございます!」とスタッフ全員で店内に響き渡る声で言うと、すごく喜んでくださいました!
最後に帰り際、「本当にありがとう! 楽しかったし、美味しかったです。料理は味だけじゃないね。その店の雰囲気も重要だよ!」と言って下さいました。そんなお言葉をもらったのは初めてだったのですごく嬉しかったです!
(「ワクラボ@タウン アルバイトちょっとイイ話」)
料理人道はわが国社会のあちこちに入り口を開けて、待っている。その道に入るのは簡単である。自分でいかにお客様におもてなしをするかを考えていけば良い。ひとたび、その世界に入れば、その中には豊穣な世界が広がっているのである。
文責:伊勢雅臣