原子力専門家の小出裕章氏は六ヶ所再処理工場に関する自著で、次のように書いている。
問題は、東海再処理施設でも発生していた「白金族元素が溶けずに沈殿してしまう」というトラブルに対して何の対策もとらないまま、5倍もの規模の施設を作ってしまったことである。その分だけ、トラブルもスケールアップしてしまったのだ。
六ヶ所再処理工場の方が東海よりはるかに深刻な問題をかかえこんでいるようである。
六ヶ所でトラブルが相次いだ高レベル放射性廃棄物の「ガラス固化体」製造工程は、フランスの技術ではなく、すでに再処理事業から撤退したドイツの技術を、石川島播磨重工が導入したものだ。なぜそんなことになったのか。
「日本の原子力産業がそれぞれに独自の利益を求めて、再処理工場建設の仕事を工程ごとに奪い合ったため、継ぎ接ぎの工場となってしまった」と小出氏は指摘する。
東海再処理施設で2008年1月までに再処理された使用済み核燃料は、累積で1,180トン。稼働率にするとたったの20%未満にすぎない。
六ヶ所再処理工場の稼働能力も同じように低いと想像される。21年に完成しても、そんな施設に3兆円もかけたのかと批判されるのがオチだ。それなら、米国の圧力のせいにして、あえて稼働させないようにしておくのが得策。そんな経産省の思惑も「余剰プルトニウムに上限」の報道から見え隠れする。
六ヶ所再処理工場を含む核燃料サイクル計画のかなめとなっていたのが高速増殖炉「もんじゅ」だったが、トラブル続きで36年経っても実用化できないまま、廃炉が決定した。
「もんじゅ」をなくして、核燃料サイクルは成り立たない。そこで、政府は「もんじゅ」は廃炉にするが、「高速炉」の研究は続けるという理屈をでっち上げた。それなら、核燃料サイクルの旗を降ろさずに済むというわけだ。
その高速炉とは、具体的にはフランスが開発し日本が協力している「アストリッド」計画のことだ。
しかし、この計画は実現に向かうかどうかさえ不透明なシロモノだ。開発主体のフランスはこのほど、計画の縮小を決定、建設するかどうかを2024年に判断すると表明したのである。
普通の原発より発電コストの高い高速炉から米英独はすでに撤退、フランスも急いで開発する必要性を認めていない。
他国依存をやめ、日本が「アストリッド」計画から撤退すれば、高速炉研究の実態がなくなり、核燃料サイクルという原発再稼働の言い訳を完全に失うことになるが、むしろそれこそが真っ当なあり方だろう。
原発再稼働はすでに正当性を失っている。だからこそ、与党陣営はそれを選挙で掲げることを避ける。そして選挙が終わると、短期的、単眼的利益のために豹変するのだ。
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