教えちゃダメだ。部下がぐんぐん育つ「良き指導者の条件」

 

ここまでのジョニー・セインコーチの姿勢、カーター選手とのやり取りからも、選手の成長を促す監督コーチとしての在り方役割のヒントがあると思います。

1点目は、徹底してピッチャーを観察している点です。セインコーチは、約1週間、ニコニコと笑顔で選手たちを観察し続けました。一般的には、コーチに実績があればあるほど、選手を見て「ここはこうしたら良い」といったように、すぐにアドバイスを与えてしまいそうです。また、コーチが、厳しい表情で選手を見ていると、選手はきっと緊張してしまって、あるがままの選手の姿を把握することが難しくなるでしょうね。

きっと、セインコーチは、本来の各ピッチャーの実力を確認するだけではなく、その選手の性格なども把握していたのではないかと思います。そういったことを把握した上で、これからの各ピッチャーのコーチングの方針を決めていたのでしょうね。

2点目は、新聞記者に選手のことを積極的に売り込んでいる点です。セインコーチは、それぞれのピッチャーのことを新聞記者に褒めています。これを聴いた新聞記者がピッチャーを取材する時に、ピッチャーに対して「セインコーチが、期待しているよ、と言っていたよ」と伝えることも考えられます。また、コーチが期待していることが新聞記事になることもあるでしょう。

褒める時の褒め方として、直接褒めるということが一般的ですが、第三者を通じて間接的に褒めるという方法もあります。直接褒められるのも嬉しいですが、間接的に褒められても、嬉しいですね。

3点目は、コーチと選手との立場の違いをしっかりと把握している点です。一般的に、選手はコーチのことを上の立場・存在であると認識して、コミュニケーションが取りづらいものです。

そこでセインコーチは、ジム・カーター投手との会話の冒頭で、お父さんの話から始めています。これは、セインコーチが、「選手はコーチを話す時は緊張するだろうな」と考えて、カーター投手がリラックスして話せるように、世間話から話を始めたのではないかと思います。

また、例えば、他者と話していて、出身地や子どもの頃にやっていたスポーツなど、何か自分と相手との間に共通点があると、親近感を持って、気楽に話しができるということがあります。私自身も、そういった経験があります。

セインコーチも、選手との共通点(ここでは、お父さんが住んでいる場所と出身大学の場所との共通点)を指摘することで、選手がコーチに対して親近感を持ってもらって本音で話してほしいと考えていたのではないかと感じます。


セインコーチ 「それじゃあ、お父さんのためにも今年は何が何でも2ケタ勝たないといけないね」

ジム・カーター 「はい、できればそうしたいです」

セインコーチ 「ところで、ジム、1週間、君の練習を見てきたが、いい球投げてたなあ。今年の調子はどうだ」

ジム・カーター 「今年は結構すべり出しは好調です」

セインコーチ 「そうだね、私もそう思う。今年はこの分だと2ケタはいけるだろう

ジム・カーター 「ええ、まあそうなるといいんですけど…」

セインコーチ 「ジム、君の持ち球は何だ

ジム・カーター 「私は、ストレートが一番得意です。次にカーブ、スライダー、それからもう1つチェンジアップの4つを持ち球としています」

セインコーチ 「今週はどれに力を入れたんだ」

ジム・カーター 「はい、ストレートですね。それとカーブには自信があります。でもスライダーとチェンジアップはいまいちです」

セインコーチ 「スライダーとチェンジアップね。ところで君のストレートはすごい。1週間、俺は君の一番得意なストレートを見続けてきたけど、一番光っている。俺もプロ野球界に20年身を置いているけど、お前のストレートは見たこともない程速いよ。去年6勝しかできなかったのが不思議なくらいだ。なぜ2ケタ勝てなかったんだろう

ジム・カーター 「やはり球種が少ないからではないでしょうか。ストレートとカーブだけでは勝てないと、前のコーチに言われました。ですから今年はスライダーとチェンジアップを徹底的にマスターしていきたいと思っています」

セインコーチ 「そうか、ところでスライダーとチェンジアップの2つで三振をとれそうか。今年の春のキャップでマスターできそうか」

ジム・カーター 「ちょっと無理です。どうも、いままでやってきたのですが、しっくりいかないんですよ」

セインコーチ 「そうか、三振を取れる球は何だ?

ジム・カーター 「それはもうストレートの速球です。これはちょっと自信があります」

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