企業が従業員に対して自宅待機を命じる場合、どのような点に注意が必要なのでしょうか。そしてその間の賃金や賞与の支払い義務は生じるのでしょうか。今回の無料メルマガ『採用から退社まで! 正しい労務管理で、運命の出会いを引き寄せろ』では現役社労士の飯田弘和さんが、ある事件の判例を挙げながら詳しく解説しています。
会社は、従業員に対し自宅待機を命じることができるのか?
会社は、従業員に対して自宅待機を命じることができるのでしょうか?自宅待機命令といっても、懲戒処分としての自宅待機いわゆる出勤停止処分と業務命令としての自宅待機があります。
業務命令としての自宅待機とは、たとえば、従業員の横領や不正行為の疑いに対して調査のために自宅待機を命じる場合や、インフルエンザの疑いが高い従業員に社内でのインフルエンザ拡散を防止する目的で自宅待機を命じる場合などがあります。
また、その従業員を勤務に就けることが不適当と考えられる場合の自宅待機などもあります。これには、ネッスル事件が有名です。
ネッスル事件
ネッスル社でセールスマンとして勤務していたX(妻帯者)が、社内で別の女性Aと交際するようになり、Aの交際相手であるBより、Xだけでなくネッスル社などに脅迫が行われ、また、取引先に誹謗中傷する文書が出回った。そこで、会社はXに自宅待機を命じたが、その期間は2年間に及んだ。その間の賃金・賞与は支払われていた。
<判決要旨>
Xをセールスマンとして勤務させることにより、ネッスル社の信用が損なわれる結果になりかねなかったのだから、長期間自宅待機を命じる業務上の必要性があったというべきであり、本件自宅待機命令は違法ではない。
この判決の中で、業務上の必要から自宅待機を命じることは、雇用契約上の労務指揮権に基づく業務命令として許されるとしました。ただし、業務上の必要性が小さければ、自宅待機命令が違法となるとされています。
懲戒処分としての自宅待機である出勤停止処分については、就業規則の懲戒規定に則ったものであることが必要です。ただ、そもそもの就業規則の定め自体や運用方法が不適切であれば、懲戒権の濫用として無効となります。