1920(大正9)年9月10日、京都大学の入学式で、総長の荒木は訓辞を行った。その一語一語に全身を熱くして聞き入る新入生がいた。後に京大総長となる平澤興である。平澤はこう書いている。
大正9年9月10日、それは私にとって生涯忘れえない、京都大学への入学式の日である。忘れえないのは、大学の大きさでも、講堂のすばらしさでもなく、総長荒木寅三郎先生の熱と誠に満ちた新入生に対する訓辞であった。
総長の口から出る一語一語は、まさに燃えていた。
そして、こう続ける。
先生は学徒にとり最も重要なものとして誠実、情熱、努力、謙虚を挙げられ、これらについて、それぞれ自らの体験と史上の実例などをもってくわしく説明され、われわれは催眠術にでもかかったように、全身全霊でこれを受けとめた。
この訓辞は私にとって決して遠い過去のものではなく、私はさらにこれを私のからだであたため私自身の経験をも加え、その肉づけを続けて今日に至った。
いわばこの訓辞は、生涯私とともにあって私を導いてくれたのである。
人生に大事な2本のレールとは何かが、この二つの逸話に鮮明である。
熱と誠。
私たちもこの2本のレールをひた走りたいものである。
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