吉野家の憂鬱。すきやき重バカ売れ後に待ち受ける消費増税の罠

tempo20190910
 

60億円の赤字となった2019年2月期から一転、今期の吉野家の業績が好調です。今回の無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』では著者で店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんが、その「勝因」を分析するとともに、消費増税後に同社が失速する可能性について指摘しています。

吉野家、「すきやき重」バカ売れで8月売上高14%増。ヒット連発で業績好調

吉野家が絶好調だ。8月の既存店売上高は前年同月比13.9%増と大きく伸びた。すき家(3.5%増)と松屋(6.1%増)を大きく上回る伸びを実現している。

吉野家が8月に好調だったのは、同月14日から全国の店舗で販売を始めたサーロインを使った「特選 すきやき重が好調だったことが大きい。同商品は牛肉のサーロインの部位を使用し、みそ汁などを付けて860円で販売。全国展開する牛肉を使った商品では最も高額という。約50万食の数量限定で、吉野家としては初の取り扱いとなる。

同商品はあまりの人気に、発売初日に多くの店舗で品切れが起きた。吉野家はお詫びを表明し、翌15日以降は午前11時からの販売とし、当日分の食材がなくなり次第その日の販売を終了するとした。人気はその後も衰えず、高額商品にもかかわらず、発売からわずか12日間で約50万食をほぼ完売した。

こうして8月はすきやき重特需で沸いたわけだが、好調だったのはこの月だけではない。今期はどの月も好調で、2019年上半期(3~8月)の既存店売上高は前年同期比6.9%増と大きく伸び、いずれの月も前年を上回った。前期(19年2月期)が0.8%増にとどまったことを考えると今期の好調のほどがわかるだろう。

吉野家の業績は好調だ。7月9日に発表した20年2月期第1四半期(19年3~5月)連結決算は、売上高が前年同期比6.0%増の527億円、営業損益は10億4,400万円の黒字(前年同期は1億7,800万円の赤字)だった。最終損益は10億9,700万円の黒字(同3億8,800万円の赤字)だ。

今期とは異なり19年2月期は業績低迷で苦しんだ。売上高は前期比2.0%増の2,023億円と増収だったものの、営業利益は97.4%減の1億400万円と激減。最終損益は60億円の赤字(前の期は14億9,100万円の黒字)に陥った。最終赤字は6年ぶり。

19年2月期は人件費や原材料費などのコストがかさんだほか、商品投入でミスを犯して既存店売上高が想定を下回ってしまい、利益を押し下げた。

18年は鍋商品「牛すき鍋膳で誤算が生じた。前年より40円高い690円で販売したことが響いたほか、すき家が「牛すき鍋定食」を前年より2週間早い11月中旬に売り出し、松屋が「牛鍋膳」を10月上旬から販売して鍋商品市場に参戦、吉野家の「牛すき鍋膳」が埋没してしまったのだ。また、17年冬に販売した人気メニューの「豚スタミナ丼を18年は見送ったことも影響した。

こうして19年2月期は既存店売上高が計画に届かず決算は不調に終わったわけだが、今期に入ってからは打って変わって好調に推移する。

まず、3月に28年ぶりとなる牛丼の新サイズを導入したことが功を奏した。大盛よりも量が多い「超特盛」(780円)と、並盛よりも量が少ない「小盛」(360円)の2種類を新たに追加。どちらも想定を超える売れ行きで、発売開始から1カ月で超特盛は販売数100万食、小盛は60万食を超えたという。

5月にはRIZAPと組んで開発したコメ抜き牛丼ライザップ牛サラダ」(540円)を発売。コメの代わりにサラダを敷き詰め、その上に牛肉や鶏肉、ブロッコリーなどを載せた商品で、「高たんぱく低糖質」をうたい、健康志向の消費者の取り込みを図った。これがヒットし、発売開始から74日で販売数100万食を突破したという。

19年3~5月期決算が好調だったのは、牛丼の新サイズとライザップ牛サラダの好調で既存店売上高が好調に推移したことが寄与したためだ。どちらの商品も単価が高いことから、3~5月の既存店客単価は前年と比べて各月5%超の大きな伸びを示し、売上高を大きく伸ばすことに成功した。

print
いま読まれてます

  • 吉野家の憂鬱。すきやき重バカ売れ後に待ち受ける消費増税の罠
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け