どうなる今年のアカデミー賞。NYの映画通日本人が評価する作品は

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おもしろくてもランク外の理由

例えば、日本でも話題になり、まちがいなく賞レースに絡むような「ジョーカー」も、「パラサイト半地下の住人」も、「アス」も、「ロケットマン」も、「女王陛下のお気に入り」も、実際に見て、文句なしに面白かったけど、「好き」にはなれなかったので、10位以内に入れませんでした。

ディズニー勢は、毎年、何本かランキングされるけど、今年は不作でした。実写版「アラジン」も、「トイ・ストーリー4」も、「アナと雪の女王2」も、面白かったけど、メッセージ性という点では物足りませんでした。

ただ、実写版「ライオン・キング」だけはいただけなかった。

あまりにもすごいデジタル映像だけに、あまりにもすごいデジタル映像だからこそ、リアルなライオンが英語をしゃべるのに、逆に安っぽさを感じました。策士、策に溺れる。

しかも、テーマ自体が「サークル・オブ・ライフ」だから、命を繋げるために、ほかの命をいただくシーンは一周回って「ソドムの市」。あれ、アニメだからいいんだよね。実写だと見てらんないよ(笑)エグすぎる。ある意味、18禁のディズニーです。

「ジョーカー」は文句なしに面白く、2回見に行きました。でもね。ちょっと手放しに「素晴らしい」とは思えなかった。

ホアキン・フェニッックスがジョーカーを演じるというニュースを聞いた時点で、すごい作品になるだろうとは思ったし、実際に見ると、その演技は、まちがいなくオスカーも獲るとは思います。ストーリー自体も感情移入できたし、見入ってしまったけれど、、、でも、史上最高、稀代の悪役、ジョーカーって、言ってみれば「底なしの怖さ」があるはずなんです。

ジョーカーの最大の特徴は、「理由なき悪」であるということ。得体の知れない怖さこそが、ジョーカーの真骨頂なはずでした。ホアキンの演技も素晴らしく、見ている間は引き込まれる瞬間があっても、でも、ふと、冷静にもなってしまう。結局、「中2病、じゃん、こいつ」と思わなくもない。ジョーカーになる過程に説得力がありすぎて、逆に、得体の知れなさ、がなくなった。

アホな理屈ですが、もし、ホアキン・ジョーカーと1対1のケンカになっても、なんなら、勝てそうに感じてしまう(笑)同情はできても、気味悪さはあっても、実物大の恐怖がない。

その点、「ダークナイト」のヒース・レジャー演じるジョーカーは強烈でした。

自身で命を断つほどのめり込んだ演技は見ているこちらに、「あ、本物のジョーカーがそこにいる」とアニメキャラを忘れるほど、そう思わせてくれました。ヒース・レジャーのジョーカーこそが、僕にとって(そして多くの映画ファンにとって)本物のジョーカーでした。

あれ以上はこの先も絶対にない。ジャック・ニコルソンのジョーカーも、ホアキン・フェニックスのジョーカーも、僕にはジョーカーではありませんでした。

韓国映画「パラサイト 半地下の家族」は、間違いなく今年のアカデミー賞外国語映画賞を獲るはずです。

こちら(北米)の劇場でも上映されていましたが、僕はたまたま東京出張中に東京の劇場に足を運び見ました。たぶん100点満点中、100点なのだと思います。まったく非の打ち所がなく、ポン・ジュノ監督の作品はいつだって、「どこかで見たことありそうな作品で、どこでも見たことない作品」。どんな映画通にでも先を読ませません。

ウエットだけれども、同情は買わない。おおげさに笑わせてくれるけど、雑ではない。ブラックコメディではあるけれど、安っぽいホラーにはならない。ちょっと、ゾッとするくらい完璧です。ここまで明確なメッセージ性を持った監督は、今の日本にはいない気がします。奥行きもあって、見ているこちらを飽きさせません。監督のほかの作品もそう。「母なる証明」しかり。「スノーピアサー」しかり。

でもね。なあんか、優等生すぎて好きにはなれない。社会派監督のこの作品に隠されたメッセージは、貧困であり、体制批判であり、格差社会批判であることも伝わります。カメラアングルまでが、それを伝えます。半地下で暮らす主人公たちと、寄生する裕福な家族をカメラは上下の動きで撮っていきます。うますぎる。

なぁんかね、その完璧なまでに計算されたカメラアングルまで、ちょい鼻につく。でも、誰が見ても絶対面白い作品ではあると思います。僕は好きではありませんでした。

ここまでランク外の作品をダラダラしゃべり続けましたが、個人的ランキング、トップ10をご紹介していきます。

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