上記のような性質は、どことなく「押し出しファイリング」を彷彿とさせます。
「押し出しファイリング」の要点は、新規作成されたもの、一度取り出したものは必ず右側に戻す、というルールにあって、このルールのおかげで整理のための活動が必要なくなり、使っていくうちに自動的にファイルが整理されていきます。
ひとりSlackのスレッド化も同様です。整理のための特別な操作は必要ありません。何度も思いつくことは、スレッド化して追記する。そのルールを守るだけで、必要なもの(追記したい対象)は「スレッド」ビューですぐさま見つけられるようになります。そうして新しい書き込みが増えたスレッドは、また次の日見つけ出すのも容易になる、というわけです。
この性質を逆に使うことで、明日の自分に先送りしたい項目をあえてスレッド化しておくという方法も考えられます。そうしておけば、たくさんの書き込みがあったとしても、明日の自分は容易にその書き込みを見つけられるようになるわけです。
このように考えると、「ひとりSlack」は、継続的かつ間欠的な思考の保存場所としてたいへん優れた適性を持っていることがわかります。
基本的にはタイムラインのように時系列に書きながら、継続的に考えたいことについてはスレッド化して抽出できるようにする。しかも、それは特別な操作感ではなく、まさにそれをしたいと思って実行する行為です。これはハイブリッド的な良さがありますね。
紙のノートを使っているなら、たとえば表紙に付箋を貼り付けることで、重要な事柄を目立たせることが可能ですし、他にもいろいろ方法はあるでしょう(※)。
※本号「モレスキンノート術」参照
一方、デジタルツールの場合、項目の順番を任意で変更できないと、そのような対応はほとんど絶望的です。せいぜい「継続的に考えたいこと」というタグをつけて対処するしかありませんが、その行為の「わざわざ感」は継続を補助してくれはしないでしょう。さらに言えば、Evernoteに代表されるノートツールは、ノートの中身を自由に彩れても、ノートリストの項目色を変えることはできないので、特定のノートを目立たせるのが難しいのです。
※絵文字を入れるというのが最大の手段です。
では、項目を任意の順番で並べられるツール(アウトライナーやUlysses)ではどうかと言うと、もちろん重要なものを上位に位置させる対応が可能ですが、書き込みが頻繁になると移動の手間は増えます。それが「まあ、いいか」というマインドを増長させてしまう可能性は否定できないでしょう。
その点、「ひとりSlack」は、スレッド化したものだけを標準で取り出せますし、スレッド化する行為自体がナチュラルです。特別な操作をしている感じがしないので、自然に続けていけます。これは長い間使い続けるほど、効果が実感できる要素でしょう。
というわけで、「ひとりSlack」は継続的思考の引受先としてピッタリだという話をしてきたわけですが、天の邪鬼な私は「じゃあ、Slackを使おう」となるのではなく、この性質を理解した上で、たとえばScrapboxを使ったらどうなるか、ということについて考えたくなります。
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