【第11回】なんでいつもこうなるんだ…人はなぜ、負けパターンに縛られるのか?春日武彦✕穂村弘対談

 

生まれ変わったら何になりたい?

穂村 さっき「生まれ変わったら」という話があったじゃない。今の自分の境遇には不満があるけど、来世では現世で抱えている悩みがすべて解決していて、新しい自分としてやり直せる、みたいな考え方もまた「死」が救いになっている例の1つだよね。

春日 人は生まれ変わりというものを割と安易に考えがちだよね。俺も好きで、よく考えちゃうもの。

穂村 先生の中では、どういうイメージ?

春日 俺はね、人間に生まれ変わるんじゃなくて、物になるんじゃないかと思っていて(笑)。

穂村 え、それって例えば?

春日 鉄橋の橋桁とか。

穂村 物っていうか、もはやパーツじゃないの(笑)。

春日 しかも一番負荷のかかるところ。おまけに濡れて体からサビ吹いちゃったりして。

穂村 それじゃあ、生まれ変わっても楽はできなさそうね。

春日 もうちょっといいところなら、どっかのお屋敷の庭園にある日時計に生まれ変わることを夢想するよ。

穂村 なんだかお洒落というか、優雅な感じね。

春日 でしょ? で、 トカゲかなんかが遊びに来てさ。何にもしていなくても、自分の影だけで人の役に立ってるっていうのがいいな、って。あと考えたのが、温度計のガラス管に入ってるアルコールとか。

穂村 細かくなってきた(笑)。

春日 ほら、温度計は誰も粗雑に扱わないでしょ? あれも気温によって伸び縮みしていれば、それだけで役に立つもんね。暑い寒いと言ってはみんな注目してくれるし、上手くすればガラス越しにテレビも見られる。ま、そういう目論見でいると、似て非なる普通の体温計に生まれ変わって、病院で嫌なやつの脇の下に挟まれたり、肛門に突っ込まれちゃったりしてね(笑)。

穂村 こんなはずじゃなかった……って(笑)。僕は、物に生まれ変わるという発想はなかったなぁ。しかも先生は、なんか役に立つものばかりを挙げるよね。ただの石とかじゃダメなの?

春日 まあ、それでもいいけどさ。自分の下に気持ち悪い虫が巣を作ったりしたら嫌じゃん。

穂村 物に生まれ変わっても、感覚や価値観は人間のままなんだ。

春日 ただのコスプレとしか思ってない、というね。だから、女優の誰それのマスクになりたい、みたいな発想になりがち(笑)。

穂村 僕はかつて会社勤めをしていた時に人事部で、面接とかもしていたんだけど、転職してきた人が「こんなはずじゃなかった」と言っているのを何度も見たことがあるよ。つまり人は転職したくらいでは、なかなか新しい自分にはなれない。

未来を拓くはずの留学でノイローゼになっちゃった友だちもいる。そう思うと、僕は転生にもあまり期待はできないなぁ。でも、こうしてねごとちゃん(春日先生の愛猫)を眺めていると、猫はどうかなって思ったりするよ。

春日 いや、それもさ、どこで飼ってもらえるかによるよ。北海道の野良猫になったりしたら大変よ。超ハングリーな環境だろうし。しかも、あんまり寒いんで車のエンジンルームで暖を取っていたら、エンジンがかかって……

穂村 まさかのバッドエンド! 可愛くて、みんなに愛される存在としてやり直そうと思ったのに……。やっぱり一発逆転は危うい発想なのか。それとも、この場所で地道にいこうと思うように仕組まれているのか。

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(第12回に続く)

春日武彦✕穂村弘対談
第1回:俺たちはどう死ぬのか?春日武彦✕穂村弘が語る「ニンゲンの晩年」論
第2回:「あ、俺死ぬかも」と思った経験ある? 春日武彦✕穂村弘対談
第3回:こんな死に方はいやだ…有名人の意外な「最期」春日武彦✕穂村弘対談
第4回:死ぬくらいなら逃げてもいい。春日武彦✕穂村弘が語る「逃げ癖」への疑念
第5回:俺たちは死を前に後悔するか?春日武彦✕穂村弘「お試しがあればいいのに」
第6回:世界の偉人たちが残した「人生最後の名セリフ」春日武彦✕穂村弘対談
第7回:老害かよ。成功者が「晩節を汚す」心理的カラクリ 春日武彦✕穂村弘対談
第8回:年齢を重ねると好みが変わる? 加齢に伴う「ココロの変化」春日武彦✕穂村弘対談
第9回:俺の人生ってなんだったんだ…偉人たちも悩む「自己嫌悪な半生」 春日武彦✕穂村弘対談
第10回:死後の世界って言うけど、全然違う人間として死ぬんじゃないかな。春日武彦✕穂村弘対談

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春日武彦(かすが・たけひこ)
1951年生。産婦人科医を経て精神科医に。現在も臨床に携わりながら執筆活動を続ける。著書に『幸福論』(講談社現代新書)、『精神科医は腹の底で何を考えているか』(幻冬舎)、『無意味なものと不気味なもの』(文藝春秋)、『鬱屈精神科医、占いにすがる』(太田出版)、『私家版 精神医学事典』(河出書房新社)、『老いへの不安』(中公文庫)、『様子を見ましょう、死が訪れるまで』(幻冬舎)、『猫と偶然』(作品社)など多数。
穂村弘(ほむら・ひろし)
1962年北海道生まれ。歌人。90年、『シンジケート』でデビュー。現代短歌を代表する歌人として、エッセイや評論、絵本など幅広く活躍。『短歌の友人』で第19回伊藤整文学賞、連作「楽しい一日」で第44回短歌研究賞、『鳥肌が』で第33回講談社エッセイ賞、『水中翼船炎上中』で第23回若山牧水賞を受賞。歌集に『ラインマーカーズ』『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』、エッセイに『世界音痴』『現実入門』『絶叫委員会』など多数。
ニコ・ニコルソン
宮城県出身。マンガ家。2008年『上京さん』(ソニー・マガジンズ)でデビュー。『ナガサレール イエタテール』(第16回文化庁メディア芸術祭マンガ部門審査委員会推薦作品)、『でんぐばんぐ』(以上、太田出版)、『わたしのお婆ちゃん』(講談社)、『婆ボケはじめ、犬を飼う』(ぶんか社)、『根本敬ゲルニカ計画』(美術出版社)、『アルキメデスのお風呂』(KADOKAWA)、『マンガ 認知症』 (佐藤眞一との共著・ちくま新書) など多数。

漫画&イラストレーション:ニコ・ニコルソン
構成:辻本力
編集:穂原俊二
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