ほとんどの心霊写真がコレ。モノが顔に見えるシミュラクラ現象とは

 

【古代への情熱】

とは言うものの、30年以上続いたこうした一連の「騒ぎ」がまったく無駄だったのかと言えば、そう簡単に否定的な総括をするわけにはいかないと思うのです。

少なくとも、「火星の古代遺跡」をめぐる様々な議論は、人々の火星への好奇心を刺激し、未知の惑星に対する想像力を書き立てました。

例えるならば、古代ギリシャの伝説や叙事詩がシュリーマン(Johann Ludwig Heinrich Julius Schliemann 1822-1890)のイマジネーションと情熱を刺激し、伝説の古代都市トロイアの遺跡を発掘させるのに至ったのと同じような「力」がそこには働いているのです。

仮に、人面岩そのものは「シミュラクラ現象」によるロマンチックな幻(vision)であったにしても、「火星の古代文明」のヴィジョンは人々の脳の中に、多種多様な「仮説」を生み出しました。それらが、ヒント(hint 暗示)となって、将来、重要な科学的発見が導き出される可能性は充分に考えられます。

人面岩発見以前の火星のイメージは、その生成以来一貫して「不毛な乾いた惑星」といったものでした。しかし、近年、火星の表面に帯状に刻まれた宇宙レベルの「大災害」の爪跡が明らかになるにつれて、火星がかつては豊富な水と厚い大気層を備えた、生命の揺りかごと成り得る豊かな星だったのではないかという新たなイメージが生まれてきました。

たとえば、火星の衛星であるフォボス(Phobos)とダイモス(Deimos)が、妙に歪んだ形をしているのも、火星を襲った大災厄の結果ではないか、といった仮説も現在では語られています。ちなみに、フォボスの意味は「狼狽」、ダイモスの意味は「恐怖」です。今になってみると、なかなか意味深な名前ですね。

【非合理の合理化】

つまり、私が指摘したいことのひとつは、先天的に人間の脳にプログラムされた「シミュラクラ現象」のような「パタン認識の傾向」は、確かに一方では「錯覚」を生み出し、事実誤認を引き起こします。しかし、一方でそれは、創造的なモティベーションを生み出すものでもあるということです。

かつてユング(Carl Gustav Jung 1875-1961)が指摘した「グレートマザー」「老賢人」「シャドー」「トリックスター」「アニマ、アニムス」といった「元型(Archetype)」の概念も、人類に共通した「パタン認識の傾向」であり、私たちの脳に先天的にプログラムされているものと考えられます。ただ、元型の場合は、認識の対象が視覚的な形態ではなく、人々の行動に表れる「人格的なパタン」であるという点が違うだけです。各々の認識の階層ごとに、私たちの脳には、生まれつき、様々な「パタン認識の傾向」が組み込まれているのです。

こうした、さまざまな「認識の傾向」は、「シミュラクラ現象」と同様に、多様な「錯視」や「錯覚」を生み出します。たとえば、環境世界を「三次元空間」として認識する視覚的傾向は、矢羽根の向きによって軸の長さを短く、あるいは長く感じさせる「ミューラー・リア─の錯視」を生み出します。同じように、視覚対象を主観的な三次元空間のどこかに定位させて見ようとする傾向は、地平線近くに登って来た月を大きく感じさせ、頭上にまで登った月を小さく感じさせます。

啓蒙主義の時代、つまり産業革命以降の合理性と論理性を中心に据えた社会においては、こうした人間の主観的「傾向」は「客観的現実」を歪める「錯誤」とされました。この時代、人間の主観を超えて、客観的で科学的な計測法により「現実」を認識できるようになったことは、確かに人類の偉大な進化と言えるでしょう。

しかし、脱産業化の進んだ現代においては、さらにその先に進む必要があるのではないでしょうか。人類の脳に先天的に組み込まれている、諸々の「パタン認識の傾向」は、確かに、対象を客観的に計測するという点においては自然科学的な技法に劣ります。しかし、そうした「傾向」は人間に与えられた「能力」でもあるのです。これらを人類の集団がマスのレベルで展開する「生存戦略」にいかに組み入れるかが、今日的な課題ではないでしょうか。

たとえば、火星上の人面岩に古代の火星文明を幻視し、火星地表に残された小惑星激突の爪跡に、豊かな生命の星を襲った大惨劇を幻視することは、将来、我々の地球を襲うかもしれない小惑星や彗星衝突の危険を認識することでもあります。そうした大災厄のヴィジョンは、これをいかに察知し回避するかという、地球規模の重大な課題を真剣に考えるための「動機づけ」を高めてくれるはずです。

「非合理の合理化」、一見、非合理に見える無駄なものを、いかに合理的な世界の摂理と融合させるか、それは現代の私たちに与えられた大切な課題のひとつだと思います。

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