ワクチンも政治利用。変異株の危機感足りぬ菅首相に国民は殺される

 

ところが、日本のワクチン接種は他の先進国に比べ、おそろしく遅れている。厚労省のまとめによると、5月6日時点の累計接種回数は約419万回。人数で言えば、高齢者が約24万人で、先に接種が始まった医療従事者を加えると約309万人である。1回目分の接種率は2%、2回目の完了率は0.8%に過ぎない。

それに比べ、米英は順調だ。2回の完了率は、イギリスが22%、アメリカは30.9
%だが、同じペースでいけば、両国ともこの夏か秋には「集団免疫」に達する見込みだという。

菅首相は就任以来、ワクチンに期待をかけてきた。それなのに、なぜこれほど遅れたのか。ファイザーやモデルナ、アストラゼネカといった、ワクチンメーカーからの調達に問題があったからだ。

昨年12月25日、菅首相は記者会見でこう述べた。

「これまでの取り組みによって、製薬企業3社から合計で2億9,000万回分、2回接種の場合は1億4,500万人分、この供給を受けることで合意はされています」

すでに英国ではワクチン接種がスタートしていた時期だ。「供給を受ける」と言い切らず、「供給の合意はされている」と回りくどくなったのは、確信が持てていないからだった。

ワクチン調達の責任者は、なぜか厚労省の災害担当審議官、大坪寛子氏であり、官邸側のコロナ担当は和泉洋人・首相補佐官である。

この二人の親密な関係は週刊誌でおなじみだ。つまり、和泉補佐官を通じて、ワクチン調達状況についてはつぶさに菅首相の耳に入ってくる。その内容が芳しくない。日本側の要求する数量と時期について、製薬会社からは「検討します」とか、「がんばってみます」とか、曖昧な“口約束”しか得られなかったのだろう。

危機感を抱いた菅首相は、得意の人事で手を打った。今年1月18日、河野太郎行革大臣を、新型コロナワクチン接種担当に任命したのである。厚労省、総務省といった所管官庁のほか、製薬会社、医師会、物流業者など、多くの関係者間を調整し、スムーズにワクチン接種を進めるという触れ込みだが、菅首相には、ワクチン調達の促進役としての期待感があったに違いない。

事実、河野大臣は得意の英語を駆使して製薬会社と交渉していたという。だが、あきらかに「運び屋」の領分をこえた仕事ぶりで、大坪氏ら厚労省サイドの反感を買ったらしい。

4月17日に菅首相が、ファイザー社CEOに、わざわざアメリカで、ワクチン追加供給の直談判をした後、フジテレビの番組に出演する河野大臣がこの件に関する田村厚労相の国会想定問答集の提供を依頼したが、大坪氏ら厚労省側に拒否されたという話も漏れ伝わっている。

菅首相は「1日100万回の接種を目標とし、7月末を念頭に、希望する全ての高齢者に2回の接種を終わらせる」と記者会見で語った。ワクチンが大量に入荷する5月中旬から本格スタートし、7月末までに、3,600万人といわれる高齢者に2回分のワクチンを接種できれば、東京五輪の開催にも格好がつくというわけだ。

そこから逆算すると、1日100万回を目指さねばならないということなのだろうが、注射を打つ医師や看護師が足りない現状からみて、容易な数字ではない。どうせ実現不可能な目標をぶちあげ、出来なかったときは「申し訳ない」で済ますつもりではないのか。そんな疑念も湧いてくる。

菅首相は4月19日、新型コロナウイルスのワクチンについて、接種対象となる国民全員分を9月までに供給するメドが立ったと強調した。だが、あくまで供給のメドであって、接種が進むかどうかはわからない。しかも、たとえ高齢者の接種が7月に完了するとしても、それ以外の対象者の接種がスタートするのは8月からになる。

下村博文自民党政調会長が言うように、全員が接種を終えるには来年春を待たねばならないかもしれない。その間に、インド型など、より厄介な変異ウイルスがはびこっていく恐れがある。

print
いま読まれてます

  • ワクチンも政治利用。変異株の危機感足りぬ菅首相に国民は殺される
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け