ホンマでっか池田清彦教授が「SDGs」に“胡散臭さ”を感じるワケ

 

長年、主に東北地方の里山を取材してきた永幡嘉之『フォト・レポート里山危機』(岩波ブックレット)を読むと、集落の自給自足にとって、どの土地を何に利用するかという法則性があり、最も効率の良い法則を見つけ出し、それを守ることがSustainable Goalだということがよく分かる。

水田はどこにでも作れるわけではなく、水を張るために水平にできる土地と、漏水しない土壌、日当たりといった条件が必要で、集落ごとの水田面積が集落の人口を決めていた。水は沢から重力を利用して水路を引いて田圃に張っていたが、途中でいくつものため池を作り、渇水に備えていた。ため池は水を温めるという機能もあったろう。田圃の水は真夏には飽水状態(地表には水が溜まっておらず、土中は満水状態)にして、酸素の補給と有毒ガスを抜き、稲刈り前には完全に水を抜いた。

水稲栽培がSustainableである理由は塩害が起こりにくいことだ。灌漑水で農業を行う際、排水が充分でないと、水が蒸発した後、水分中のごく微量な塩分が地表面に残り、これが積もり積もって塩害を起こし、持続可能な農業を阻害する。チグリス・ユーフラテス川の灌漑水を利用して麦類の栽培を行って大繁栄した古代メソポタミア文明の崩壊の一因は塩害だと言われている。このメルマガでも触れたことがある、アラル海にそそぐアムダリア川とシルダリア川の灌漑水を利用した綿花栽培も塩害に悩まされているようだ。北アメリカの乾燥地帯で地下水によって栽培されているコムギやトウモロコシなども、後100年も経てば、塩害で栽培できなくなると思う。

里山には水田と水路とため池以外にも、自給自足に必要な様々な装置が必要で、土地の利用は計画的かつ法則的で不用な土地はなかった。生活するためにはエネルギーと住居が不可欠で、人家の周りの水田が作れない土地には薪炭林があり、薪と炭を生産していた。薪は重いので薪を採る雑木林は近くに、炭は軽いので炭を焼くための林は遠いところにあった。薪炭林とは別の人工林はクリ畑で、これは食材であると同時に、住宅を建てる際の基礎材で、建材に必要なスギやアカマツは集落に必要な量しか植えられなかったので、面積は小さかったという。

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