陰謀論に激怒の大物ミュージシャンが続々撤退。Spotifyで何が起きているのか

 

あとは、サービスの音質の問題があります。スポティファイの場合は、有料会員(プレミアム)が最高音質を選んだ場合、ストリーミングでもDLでも最高320kbsのMP3クオリティになります。スマホで聞く分にはまあ十分と思いますし、微妙にイコライザをかけている(らしい)音作りが上手で、特に不便は感じません。

ですが、大型機器でモニタースピーカなどを鳴らすとボロが出るわけで、この点に関しても、特にオーディオにうるさいヤングは、前々から意見を言っていたという情報もあります。こうした声を受けて、またアップルが「ロスレス・ハイファイ」をやると宣言し始めたことから、スポティファイも2021年の初めに「自分たちもロスレス・ハイファイ」をやると表明していました。

具体的なスペックは分からないのですが、24ビットで、クロスオーバの周波数は96とかという俗にいう「ハイレゾ」になるという期待が高まっていたのです。ところが、発表から1年を経た現在も、ローンチの気配はありません。この間、インフラはどんどん進んでいるし、通信コストの問題も良くなっているのですが、ハイファイ化によって巨大化するファイルの格納など実務的な作業に時間がかかっているのか、よく分かりません。

もしかするとファイルの収納場所となるクラウドのサービスについてAWSなどとの価格交渉が難航しているのかもしれません。この点についても、ヤングという人はロッカーの中でも有名な「オーディオこだわり派」なので、色々と文句を言ったり、これまでもモメたりしていました。この「音質問題」も背景にはあると思います。

問題をややこしくしているのが、スウェーデンという国の立ち位置です。まず、アメリカではないので、アメリカの常識がダイレクトには通用しません。勿論、ネットには国境はないので、基本的にはグローバルサービスということで、倫理とかレギュレーションということでは国際的なルールが優先されます。また、スウェーデンはEU加盟国なので、そのルールも適用されます。

そうした観点からすると、「アメリカ以上に言論の自由を保証」ということになります。例えば、アメリカの場合はバイデン政権が強く指導しているので、SNSや動画配信などを通じた「アンチワクチン陰謀論」は削除されます。ですが、スウェーデンの場合は「もっと強い自由」があるというわけです。

ローガンというDJの発言は、アメリカ基準では「ダメダメ」でも、言論の自由が保証されたスウェーデンでは「ポッドキャストが削除されない」ということになるわけです。その結果として、ローガンは、アメリカ発のアメリカ人向けの陰謀論を、スウェーデンのサーバを借りて言いたい放題やっているという構図になっています。

ヤングが許せないと思ったというのには、この点もあると思います。スポティファイの側も、事態を憂慮しているようですが、とにかく「言論の自由」という金科玉条があるのでなかなか動きが取れない中で、徐々にローガンのコンテンツの削除を進めています。そんな中で、決定打となったのは、過去のローガンの発言の中に「人種差別にあたる決定的なNワード」が使われていたというネタであり、この問題をタテにしてようやく「ローガンのコンテンツ」に対する規制が始まったわけです。

ただ、スポティファイの態度はまだまだ中途半端です。露骨な陰謀論ネタのコンテンツは削除されていますが、短いメッセージなどでは相変わらず自説を堂々と展開しています。今でも、スウェーデンのサーバということを利用して言いたい放題というのは変わりません。「俺はニール・ヤングのファンなので、今回の事態は残念でならないが、言論の自由を守るためには妥協しない」などというローガンのメッセージが今でも堂々とアップされているのです。「正直言ってヘイターにも感謝だ。俺の主張を世間が再検討する機会をくれたからだ」などというのですから、図々しいにも程があります。

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