誰のためのライフハック?
そうした環境においては、元来ライフハックが内包していた反骨精神は、骨抜きになってしまうことは想像に難くない。そうすると、残るのは「効率性・生産性」を追い求める姿勢だけである。
そのような姿勢を持つ働き人は、当然のように企業にとって一番都合の良い人間である。この点は、おそらく日本だけの話ではなく、先行していたアメリカでも同種の現象が起きていたのだろう。
● The Rise and Fall of Getting Things Done | The New Yorker
結局、ライフハック的なことをしていてもぜんぜん変わらない。そのような理解の先にライフハックブームの終焉があったに違いない。ライフハックは、謳ったはずの成果をもたらさなかったのだ。それはそれで一つの、そしてまっとうな終わりの訪れであるように思う。
しかしながら、私は思うのだ。本当にライフハックはそんな成果を謳ったのだろうか、と。
今こそライフハック
ライフハックは本当に死亡してしまったのだろうか。まったくの役立たずとして灰と成り果ててしまったのだろうか。私はそうは思わない。
むしろ出発点となったライフハックが持っていた姿勢は、現代においてもいまだ有用性をおびえているばかりか、現代でこそその必要性が再び輝き始めているのではないか。
最新のテクノロジーやツールに乗っかる、ということではなく、泥臭い方法を背景に持ちながらも、反骨精神や不屈のマインドセットを持った問題解決への姿勢。一見すると、鮮やかには見えないものの、自分なりの人生を生きるための試行錯誤や創意工夫。そうしたものが、より「活きる」時代になってきているのではないだろうか。
もちろん一つには、ようやく日本社会でもITの必要性が認められてきたという時代の変化がある。今ではZoomやLINEは当たり前のツールになっているし、その他のクラウドツールも徐々にであれ利用可能性が増えてきている。いわば、時代が(かつての)ライフハッカーに追いついてきたのだ。
しかし、それはツール普及の話だけではない。新しい仕事のやり方や生き方もまた少しずつその根を伸ばしつつあるのではないか。新しい接面が生まれつつある、ということだ。
そういう接面に対応するための「ノウハウ」。それを今こそ再構築すべきであろう。
(次回に続く)
※ 本記事は有料メルマガ『Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~』2022年1月31日号の一部抜粋です。続きは2月14日号に掲載されています。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
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