江戸っ子が安政江戸地震にめげる暇もなく復興へと歩み出せたワケ

 

復興は進みますが、町奉行所が危惧していたように大工や左官、鳶職などの手間賃は高騰、諸物価も上がりました。職人たちは引く手数多で、彼らは普段では得られなかった銭、金を手にしました。となると、「宵越しの金は持たない」のが江戸っ子です。寄席や仮営業を始めた吉原に押しかけ、散財しました。江戸っ子たちも逞しいですが、大火災に見舞われながら営業を再開した吉原の遊女たちには、逞しさと共に哀れを感じます。

また、景気の良い大工や左官、職人たちに便乗しようと俄か大工、左官、職人が現われもしました。鋸や金槌など持ったこともない連中が見よう見まねで大工仕事をやり始めたのです。それでも、猫の手も借りたい再建作業とあって仕事にありつけたそうです。

こうした風潮を風刺する、「鯰絵」が出回ります。地震の元凶と思われていた鯰を描いたのですが、地震直後と復興の進行によって絵柄が変遷します。地震直後の絵柄は、鹿島大明神が地震の止め役となり要石で鯰を押さえつけるというものでした。つまり、大地震を起こした鯰を懲らしめていたのです。それが復興景気の恩恵を受ける大工や左官、職人たちが現われると、鯰が彼らに小判を与える絵柄となります。更には、大工、左官、職人たちから鯰が接待されている絵も描かれるようになりました。

また、地震は富の集中が一部の金持ちに進んだ江戸社会への鉄槌、一部の大商人ばかりが良い思いをしている世の中が地震によって是正される、世直しが始まる、という期待も高まりました。幕府はこうした風潮に彩られた鯰絵を禁止し、刷れないように版木を没収します。浮かれ気分に水を差されはしましたが、町人地は復興へと向かいました。

では、江戸の七割を占める武家地はどんな状況だったのでしょう。

最終週では、武家地の地震状況について話を進めます。

幕末史に興味のある読者なら、水戸徳川家の罹災を思い浮かべることでしょう。私なりに、水戸徳川家が罹災しなかったなら、幕末史はどのように進行したのか妄想してみましたので楽しみにしてください。

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image by: RYUSHI / Shutterstock.com

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1961年岐阜県岐阜市に生まれる。法政大学経営学部卒。会社員の頃から小説を執筆、2007年より文筆業に専念し時代小説を中心に著作は二百冊を超える。歴史時代家集団、「操觚の会」に所属。「居眠り同心影御用」(二見時代小説文庫)「佃島用心棒日誌」(角川文庫)で第六回歴史時代作家クラブシリーズ賞受賞、「うつけ世に立つ 岐阜信長譜」(徳間書店)が第23回中山義秀文学賞の最終候補となる。現代物にも活動の幅を広げ、「覆面刑事貫太郎」(実業之日本社文庫)「労働Gメン草薙満」(徳間文庫)「D6犯罪予防捜査チーム」(光文社文庫)を上梓。ビジネス本も手がけ、「人生!逆転図鑑」(秀和システム)を2020年11月に刊行。 日本文藝家協会評議員、歴史時代作家集団 操弧の会 副長、三浦誠衛流居合道四段。 「このミステリーがすごい」(宝島社)に、ミステリー中毒の時代小説家と名乗って投票している。

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