犯罪多発都市に逆戻りのNY。治安を破壊されたビッグ・アップルの不幸

 

更に、富裕層に続いて子育て世代の流出も止まりません。これも恐ろしい数字ですが、Kから12、つまり幼稚園の年長から高校4年生までの13年間の公教育期間の生徒数が、NY市内ではパンデミックが始まってから9.5%減少したというのです。子供が減るということは、旺盛な消費を行う子育て家庭が丸ごと消えるわけで、これも経済への影響は計り知れないわけです。

次は通勤人口です。依然としてニューヨークに本社や事業所を置く企業は多く、その業績も堅調です。ですが、問題はリモートワーク(日本で言うテレワーク)が大きく普及しているということです。

まず2020年からのパンデミック初期には、ロックダウンが施行された関係で、リモート可能な職種は全部リモートとなり「出勤停止」措置が取られました。この切り分けはかなり現実的で、例えば食品スーパーの現場仕事は出勤可能だが、その会社の会計部門はリモートだとか、実験室で検体を管理する研究員は出勤可能だが、その管理職は出勤不可というようなキメの細かいものでした。

当初はアメリカでも試行錯誤がありましたが、テックや金融業界など純粋に知的な労働に関しては、パンデミック前から在宅勤務という名のリモートが流行しており、今回もスムーズにこれが100%となったのでした。ですから、NYの場合は2020年4月以降の当分の間、具体的には2021年夏までは、知的労働のほぼ100%がリモート(テレワーク)になっていたのです。

つまり、定住者という夜間人口だけでなく、通勤による昼間人口も減って行ったわけで、2020年の終わりから2021年にかけてのNYは、特にマンハッタン島については本当に人影のない感じになっていました。庶民的な住居エリアである、島の西側とか東のイーストリバー沿いだとかハーレムなどは一定の人口があり、外食もスーパーも回っていたわけですが、オフィス街はかなり厳しい状態になっていました。

この間に、ミッドタウンやダウンタウンの外食関係は、壊滅とまでは行かないまでも6割は廃業したようです。ダウンタウンの場合は、なんだかんだ言って大きなコミュニティであるNYU(ニューヨーク大学)が100%リモート授業になり、寮から学生が消えたことからビレッジ界隈の灯も消えた
感じとなりました。

これに対して、2021年の8月前後からは、危機感を募らせたアダムス市長が主導して、財界に対して「このままではNYの街が壊滅してしまう」と「オフィスへの復帰」を呼び掛けたのでした。財界もこれに応えて、2021年9月ごろからは一斉に「出勤命令」を発動しました。

理由としては、新規事業のためのアイディアを議論するとか、貸付先の信用度について精度の高い判断をするなどのケースでは、どうしても「対面」の方が結果が出せるというのです。これは財界側の事情ですが、市としてはこのまま街が衰退しては困る、そのためにはどうしても昼間人口を戻してゆかねばならないというわけで、かなり強めのメッセージが出されました。

ですが、勤め人たちの反応は鈍いままでした。まず、子育て世代にとっては、この間のリモートで、職住近接どころか職住一致で通勤時間ゼロというライフスタイルを満喫することができていたわけです。それを捨てて、通勤するというのは明らかな「不利益変更」になるとして、強い抵抗がありました。

2021年の秋には各社で様々な動きがあったのですが、結局は、オミクロンの拡大という問題もあって、一旦は「オフィスへの一斉復帰」は棚上げになっています。現在ではどうかというと、報道によればリモートに対して、オフィス出勤の率28%程度という調査結果があります。また、出勤とリモート組み合わせた「ハイブリッド」が良いという意見は、NY全市の勤め人の間では75%が支持しているという報道もあります。

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