犯罪多発都市に逆戻りのNY。治安を破壊されたビッグ・アップルの不幸

shutterstock_2170543183
 

世界に先駆けてワクチン接種を進め、いち早く経済を復活させたアメリカ。しかしその中心都市は、未だ「コロナの後遺症」に苦しんでいるようです。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では著者で米国在住作家の冷泉彰彦さんが、あらゆる面でコロナ前の水準に遠く及ばないニューヨークの現状を紹介するとともに、復活を妨げている原因を解説。さらに今後考えうる「ニューヨーク復興のシナリオ」を考察しています。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2022年9月6日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

この記事の著者・冷泉彰彦さんのメルマガ

初月無料で読む

 

傷ついたニューヨークは復活できるのか?

ニューヨークという都市は苦しんでいます。2020年3月に新型コロナウィルスの感染拡大が始まって以来、既に丸々2年半が経過したわけですが、今でも都市機能そして経済はコロナ禍以前に戻っていません。

戻っていないといっても、コロナ禍が継続しているというのとは、少し違うのです。アメリカ人の生活実感としては、コロナ禍というのは「ほぼ過去形」になっています。街中でマスクをしている人は、ほぼゼロですし、新学年を迎えた学校などでもマスクの義務化は終わっています。

人の集まるイベント、レストラン、バーなどの営業規制もありません。ですから、ある種の空間では「コロナ禍など悪い夢だったのでは」というような「日常」が戻っていたりもします。

この点では、日本の第7波とは逆転しているのですが、そもそもアメリカの場合、現状が落ち着いているのは、2つの理由から来ています。

「既に60%以上の人間がコロナに罹患して自然免疫の壁が形成されている」

「オミクロン対策で重要な児童生徒のワクチン接種率が日本より高い」

という2つです。この点については、改めて資料が揃ったところでお話ししようと思います。ですが、日本の場合は「感染対策をやってアルファ、デルタを乗り切ってしまった」ために自然免疫が弱いことと、厚労省が児童生徒への接種を強く勧奨することから「怖くて逃げた」ことに大きな原因があると思っています。

それはともかく、基本的な感染の状況はアメリカ、特に東海岸や西海岸などの場合は、非常に落ち着いています。私の住んでいるのは、ニューヨークの隣のニュージャージーですが、毎日の新規感染者は1,000名前後、実行再生産数(1人の陽性者が感染させる人数の平均)は、0.90前後ということで、かなり数字的も安心できる感じになっています。NYも同様です。

しかしながら、ニューヨークという都市は再生していません。

まず現状どんな問題があるのかというと、4つの問題が指摘できます。その内容とは、何ともベタな言い方になりますが、

「定住人口の減少」

「通勤者の減少」

「国内観光客の減少」

「海外観光客の減少」

の4つです。この中で、多少は「戻り」の気配があるのは国内観光客で、確かにタイムズスクエアからブロードウェイにかけての人の流れは、特に宵の口までの時間帯であれば賑わっています。その多くが家族連れで、いかにも「観光に来た」という風情でわかります。

ですが、残りの3つのカテゴリはいまだに散々な状況が続いています。

まず定住人口ですが、この5月に発表された「パンデミックの最初の1年間」に流出した人口のデータでは、NYの場合に2020年7月から2021年7月の1年で30万5,000人の人口減少が起きたそうです。人口840万が810万になったということですから、3.5%が消えたわけです。

問題はその多くが富裕層ということです。2020年の後半には、セントラルパークの東側になる「アッパー・ウェスト」という高級住宅街で、中古の家具の即売会がよく行われていたそうですが、とにかく高価な家具を叩き売ってコンドミニアムから引き上げて、コネチカットとかニュージャージーの「落ち着いたところ」に逃げるという層が多かったようです。富裕層が逃げてしまうと、当然のことですが、高額な消費をする人口が消えることで経済には大きな痛手が残っています。

この記事の著者・冷泉彰彦さんのメルマガ

初月無料で読む

 

print
いま読まれてます

  • 犯罪多発都市に逆戻りのNY。治安を破壊されたビッグ・アップルの不幸
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け