なぜ山形の観光農園のコロナ禍対応は一時凌ぎでは終わらなかったのか

2022.09.13
 

新しい行動を統合的な仕組みの変革のなかで実現する

マーケティングにかぎらず、組織や人の活動にあっては、事態が想定外の方向に急展開していく局面では、とっさの判断で新しい方向を見いだし、行動を切り替えていくしかない。ここで新たな方向に切り替えてでも行動を続けていくべきなのは、行動を止めてしまえば、新しい機会が事業にもたらされることもなくなるからである。

とはいえ、新たな行動をはじめるだけでは、当面の対応に止まってしまうことが少なくない。王将果樹園は、なぜコロナ禍のなかで新しい行動を、新たな事業機会の獲得につなげていくことができたのか。王将果樹園は、ニューノーマルの消費における人々の変化に対応するだけではなく、自社の収穫や出荷などオペレーションにも踏み込み、作業者の手配や、収益化の仕組みの見直しを進めている。矢萩氏たちは、ニューノーマルの消費に対応しようとすれば、自社の事業の複数の領域に影響がおよぶことを見逃さず、新しい行動を一時しのぎに終わらせないための変革に取り組んでいる。

事業はシステムとして成り立っている。観光農園も同じであり、果樹の栽培だけではなく、集客や接客、そしてそこで生まれた顧客接点を、その後の通信販売などにつなげていくといったシステマティックな取り組みによって事業は拡大していく。マーケティングは、この仕組みとつながりのなかで機能する。市場の変化のなかで新しい機会をとらえるためには、単に新しい行動に取り組むだけではなく、そこで必要となる統合的な仕組みの変革という課題にこたえる必要がある。

image by: Shutterstock.com

栗木契

プロフィール栗木契くりきけい
神戸大学大学院経営学研究科教授。1966年、米・フィラデルフィア生まれ。97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(商学)。2012年より神戸大学大学院経営学研究科教授。専門はマーケティング戦略。著書に『明日は、ビジョンで拓かれる』『マーケティング・リフレーミング』(ともに共編著)、『マーケティング・コンセプトを問い直す』などがある。

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