なぜ山形の観光農園のコロナ禍対応は一時凌ぎでは終わらなかったのか

2022.09.13
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驚異的なスピードで全世界に拡がり、あらゆる業界に大打撃を与えた新型コロナ。そんな中にあって、コロナ禍対策を自社の成長につなげた観光農園が山形県にありました。なぜ彼らの対策は、よくありがちな「一時しのぎ」で終わることがなかったのでしょうか。そのカギを、神戸大学大学院教授で日本マーケティング学会理事の栗木契さんが探ります。

プロフィール栗木契くりきけい
神戸大学大学院経営学研究科教授。1966年、米・フィラデルフィア生まれ。97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(商学)。2012年より神戸大学大学院経営学研究科教授。専門はマーケティング戦略。著書に『明日は、ビジョンで拓かれる』『マーケティング・リフレーミング』(ともに共編著)、『マーケティング・コンセプトを問い直す』などがある。

山形の観光農園は、どのようにしてコロナ禍から新たな事業機会をつかんだか

はじめに

マーケティングにとって合理的なのは、どのような行動だろうか。戦略計画の発想にもとづく行動は、広くマーケティングに採用されている。戦略計画とは、企業などの組織の経営において、事前の調査や分析を徹底することで予測や見通しの正確さを高め、そのもとで検討を重ねて計画を練り上げ、統合された活動を整然と展開するというアプローチである。マーケティングにおいても、戦略計画が活躍する局面は少なくないが、これを万能視してしまってよいか。コロナ禍のなかで山形の観光農園がどのようして新たな事業の可能性をつかんだかを振り返ることで、この問題を考えて行く。

想定外の事態への対処が、新しい展開をもたらす

コロナ禍は2020年にはじまり、多くの産業や企業の事業環境は一変した。このような状況のもとでは、どのように行動をとることが、マーケティングにとって合理的か。

この2020年からの大きな変化を事前に予測し、マーケティングの計画に織り込むことができていたという企業を、寡聞にして私は知らない。あるいは、コロナ禍に直面しても、それ以前に立案したマーケティングの計画を変えることがなかったという話も聞かない。

企業のマーケティングでは、予測や計画は万能ではない。コロナ禍にかぎらない。マーケティングの各種の活動を進めるなかでは、次々と思わぬ事態に直面することが避けがたい。そうなれば、頭を切り替えて、その場そのときに利用可能なリソースを活用して、予定外の新しい行動をはじめるしかない。

そこではじまる新しい行動にいかに取り組むかは、マーケティングにとっての重要問題である。なぜなら、この想定外の事態への対処が、事業に新しい展開や成長の機会をもたらすことがあるからである。

しかし、新しい行動に取り組むだけでは、一時しのぎのパッチワークに終わってしまうこともある。市場の変化のなかで新たな機会をとらえるためは、行動を絶やさないことに加えて、何が必要か。

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