ようやく気づいたか自民党。遅きに失した「子ども手当」復活の流れ

 

赤字国債発行法案は補正予算案の約4割を占める37兆円の財源を赤字国債の発行で確保するために必要なものだった。政権側としてはどうしても、この法案を通さなければならなかった。

しかたなく民主党は、子ども手当の見直しを自公側と話し合った。焦点は、所得制限を設けるかどうかだった。

子ども手当を“人質”にとられた民主党は結局、自民、公明に譲歩し、3党合意による子ども手当の廃止を決断。月額2万6,000円を支給するという約束をついに果たせないまま、児童手当が復活し、2012年4月から所得制限のある新児童手当が支給されることになった。

この経過は、日本の少子化対策にとってきわめて残念なものだった。財務省がその気になれば、国債を発行してでも財源はつくれたはずだ。鳩山由紀夫内閣が米軍普天間基地移転の問題でつまずいて以来、民主党政権が短命に終わると見通していたのだろう。財務省は民主党を取り込む一方で自民党とも水面下で共同歩調をとり、自民党政権の復活にそなえていた。

2010年の政府総債務残高は1,039兆円。2022年は1,457兆円である。国債発行などで12年間に418兆円も借金が増えているのだ。少子化対策の重要性を与野党がしっかり認識していれば、ともに財務省を動かし、国債発行でつくった莫大な資金がより有効に使われた可能性がある。

民主党は政権交代前、税金のムダづかいと天下りを根絶し、国の総予算207兆円を全面的に組み替えて財源を捻出するといっていた。しかしその威勢はしだいに弱まり、菅内閣、野田内閣では政権のマニフェストに反して消費税の増税をめざすなど完全に財務省の論理に染まっていった。

民主党政権の目玉政策のうち、小沢一郎氏が主導した農業の戸別所得補償は土地改良事業予算の削減により鳩山内閣で実現したが、子ども手当については失敗というほかない。しかし、「子どもは社会全体で育てる。親の収入にかかわらず手当を支給する」という理念そのものは決して間違っていなかった。今回、自民党の所得制限撤廃への動きがそれを証明したともいえるのではないか。

だからといって、立憲民主党は子ども手当が長続きしなかった責任を自民党や公明党になすりつけるべきではない。むろん彼らが人口減少問題への確たる考えもなく子ども手当を排撃したのはこの国にとって不幸ではあったが、第一義的な責任は当然のことながら、政権を担っていた当時の民主党にある。

財務省がどんな理屈で財源難を説明しようとも、国の未来のために掲げた公約を実行する強い姿勢が必要だった。腰砕けになる姿が、その後の民主党の低迷を招き、今の立憲民主党に対する低支持率にもつながっている。

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