先進国で自給率最低。ニッポンの食料安保を脆弱にした主犯は経産省か農水省か?

 

同じく元農水官僚の鈴木宣弘・東大大学院農学生命科学研究科教授は、食料輸出国が輸出をストップし、お金を出しても買えない事態が懸念されるとし「日本は世界で最も食料安全保障が脆弱な国であり、それゆえ最も飢餓のリスクが高い国」と断言する。

その根拠として、現在でも先進国で最低レベルの食料自給率が、今後も低下し続けると予測されることをあげる。

「日本のカロリーベースの食料自給率は、2020年の時点で、約37%という低水準だ。(中略)しかし、37%というのは、あくまで楽観的な数字に過ぎない。農産物の中には、種やヒナなどを、ほぼ輸入に頼っているものもある。それらを計算に入れた『真の自給率』はもっと低くなる。農林水産省のデータに基づいた筆者の試算では、2035年の日本の『実質的な食料自給率』は、コメ11%、野菜4%など、壊滅的な状況が見込まれるのである」(鈴木宣弘著『世界で最初に飢えるのは日本』2022年12月発行、以下同じ)

国内で食べる食料が、国内で生産されたものでどれほど賄えているかを示す割合が食料自給率だ。カロリーで表す方法(カロリーベース)と、生産額で表す方法(生産額ベース)があるが、飢餓を問題にするならカロリーベースで考えるべきだろう。

日本におけるカロリーベースの食料自給率は2021年時点で38%だ。今の調査方法になった1965年は73%だったが、2010年以降は40%を割り込んでいる。

戦後、主食としてコメだけでなく、小麦を原料とするパンなども多く食べられるようになり、肉、卵、油を使う料理も広がった。家畜のエサにするトウモロコシなどの穀物や、油のもとになる大豆、菜種などは、山が多く平地が少ない日本で大量につくるのは難しいため、どうしても海外からの輸入に頼らざるを得ない。

農林水産省の試算では、輸入が止まった場合、イモ類を中心に栽培すればなんとかカロリーの面では日本人の食をまかなえるが、いつも食卓はイモが中心となり、卵は7日に1個、肉は9日に1食といった食事風景になるという。

山下氏は、台湾有事のようなことがないかぎり日本では食料危機の心配はないと言い、鈴木氏は世界的な不作や国同士の対立による輸出停止・規制によって、お金を出しても買えない事態に陥る可能性があると言う。両者にやや危機意識の違いは見られるが、いったんコトが起きれば日本人の餓死するリスクが格段に高くなるとする点では共通している。

しかし、日本の食料安保をこれほど脆弱にした“主犯”は誰かとなると、両者の間には大きな違いがあるようだ。

山下氏は農水省・JA農協・農林族議員の、いわゆる農政トライアングルによる減反政策の弊害を指摘する。

「終戦後、日本は大変な飢餓に苦しんだ。このため、食糧増産を目的として、終戦時の900万トンから20年をかけて1,445万トン(1967年)まで米生産を拡大した。しかし、その後、農政トライアングルが主導した減反政策によって、逆に50年間で半減され、とうとう700万トンを切ってしまった」

米価を高く維持するための減反政策で耕作面積は減り続けた。農地の造成により、720万ヘクタールの農地があるはずなのに、実際には440万ヘクタールしかない。その差280万ヘクタールを、半分は転用、半分は耕作放棄で喪失したと山下氏は指摘する。

現下のように穀物の国際価格が上昇すると、農政トライアングルが必ずといっていいほど持ち出すのが「関税や補助金などで国内の農業保護を高めるべきだ」という主張だが、国はこれまでJA農協という利益団体の声を聞き入れて農業予算を投じ、そのため逆に国内生産が減少してしまったのが実態だという。

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