トルコ地震が潰したプーチンとゼレンスキーの直接対話。代わる仲介役は日本しかない理由

 

気球問題の手打ちは?米中外交トップ「偶発的会談」

しかし、トルコの不参加が濃厚となったことで、ロシアの参加もなくなりそうな気配のようです。当初はMSCの場で一応話し合いの機会を持とうと計画していたのですが、ロシアとウクライナの高官の直接対話を実現するためには誰かが間に入って仲介・調停をする必要があり、現時点ではトルコが最適と認識されていますので、ロシアが参加を今年も見送る公算が高くなりました。仕方がないと言えますが、確実にopportunity is lostと言えるかと思います。

話は少しずれてしまいますが、今回のMSCで目玉と考えられるのは、米中が直接対話を行うか否かという点です。

アメリカはブリンケン国務長官が参加し、中国は王毅国務委員(外交トップ)が参加するため、昨今のスパイ気球問題への対応と手打ち、ロシア・ウクライナ戦争の落としどころなどが話し合われるのではないかとの期待が高まっています。ただ、開催直前のタイミングではまだどちらからも会談予定が発表されていませんので、恐らく偶然のencounterを装う形での会談・意見交換が行われるのではないかと思っています。ちょうど、MSCの前に王毅氏がモスクワを訪れていることから、何らかの情報や意見を持参してくるのではないかと思われます。

ウクライナ戦争に対する何らかのブレークスルーが起こるとすれば、米中外交トップの偶発的なencounterの場ではないかと、勝手に期待しています。

私も何度かMSCには参加させていただきましたが、会場となるミュンヘンのバイリッシャ─ホフというホテルはいろいろな会談を仕組める設えになっていることから、たくさんの非公式な会合や偶発的なencounterが演出できる場でもあります。MSCが別名安全保障版のダボス会議と呼ばれる所以は、民間機関が主催しているという点のみならず、このような設えが共通する特徴であることも理由だと実感しています。

2年連続でMSCに参加する林外相は北東アジアのエルドアンになれるのか

日本政府からは昨年に続き林外務大臣がMSCに参加するようですが、主に自国の安全保障環境への懸念を議論し、北東アジアの安全保障体制の重要性を訴えかけた昨年の参加とは違い、ウクライナ戦争によって世界が分割され、アジアはもちろん世界各地で緊張が高まる中、どのような発言をし、どのような貢献をしようとするのか。私はとても期待しています。できれば、先ほど述べたトルコ的な役割を果たしてくれるといいなあと。

今週の金曜日から日曜日にかけて行われるMunich Security Conference。ロシアによるウクライナ侵攻から1年を迎える直前に、世界全体を巻き込んだ安全保障の危機と協調の崩壊に対して何らかの指針を示し、私たちに希望の光を照らすことが出来るか。それともより世界の分断を印象付ける結果になってしまうのか。

一参加者としてしっかりと見届けたいと思います。

以上、国際情勢の裏側でした。

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